実は1カ月ほど前の新聞制作業務において、数年に1度レベルの大チョンボをやらかしました。いま思い出しても胃がギュンと痛くなってくるので詳述は避けますが、おそらく数分程度は寿命が縮まったものと思われます。何しろ、指の先までビリビリと痺れがきて、視界が一瞬、竹筒から覗いたようになりましたから……。
苦楽を共にしたソロバンも今は勇退戦士の風情が……
▼消しゴムのカスに埋もれる
“割り付け台紙”なるものを渡されたのは入社2年目のことでした。当時の上司から、「とりあえずやってみて。手順は、①能力表の面積+全記事量÷段数で線を引く。②それぞれの記事を貼り込む位置を線を引いて指定する。それでお終い」とニコやかに言い渡されたのです。それだけですか?それだけです。
今の会社での自分のメインワークが決まった瞬間でした。まあ、ここまで単純なやりとりではなかったかも知れません、ちょっと脚色しました(笑)。
何しろその当時は木曜日に事前のメンバー(いわゆる木曜出馬)が発表されることもなく、新聞制作の数分前まで出走頭数が確定しないという状況。出馬当日に頭数が動くこと動くこと。しかも、最初に組まれているレース数は11レースしかなく、出馬投票の結果、最も頭数が多くなったレースが2分割されて計12レースとなるシステム。しかも、それが第何レースと第何レースに組み込まれるのかも直前まで不明という、それはもうイジメとしかいえないような過酷なシステムでした。
そんな中での手作業でのレイアウトは、線を引いては消し、また引いてはまた消し、またまた引いてはまたまた消しの繰り返し。時にはブチキレながら、時には泣きそうになりながら……。
こうして新聞制作の作業が1回終了すると、机の上は消しゴムのカスだらけになったものです。
で、この当時もけっこうチョンボをしてました。組版の先輩社員の方々に助けられ、大事には至りませんでしたが……。ちなみに、チョンボ判明後は概ね以下のようなプロセスでピンチに陥ります。冒頭でも述べたように、これはいまも一緒。
①冷や汗が全身から噴き出す
②指先がビリビリ痺れてくる
③視界が狭くなってくる
④最終的には何とかなっている(笑)
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当時の仕事再現図。こんな感じのものを組版に送って、手作業で貼り込んでもらっていた。
▼パソコン様々の現在
さて、話は二十数年後に戻ります。久しぶりに“その感覚”を味わったあとはしばし呆然として仕事もあまり手につかず……。自分に与えられたこのレイアウト業務のシステムがどれだけ進化してきたかを考えていました。あくまでも仕事してる振りをして……。
思い出してみると、当時の必携アイテムだった鉛筆、消しゴム、定規、そして、ソロバン(電卓は不可と言われていたので)。これらはもうすべて使ってません。パソコンが代わりに全部やってくれるからです。ページ数が4ページから4倍の16ページに、掲載するレース数が12Rから2倍の24レースになっても、これをどうにかこうにか裁けているのは何故でしょう?木曜出馬が発表されるようになった恩恵も確かに小さくありませんが、やはり、パソコンが最大の功労者であることに疑いの余地はありません。面倒な計算はすべてパソコンがやってくれますし、紙面を組み直したければ、ちょいちょいとで数字を入れ直すだけで済みます(しかしこれが今回の大チョンボの要因にもなった)。まさにパソコン様々の現在です。
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現在はこのように全部パソコンで組んでいる。
▼羽根など生えようもない
しかし、気がつくとパソコン任せに慣れ切ってしまった自分がそこにいるわけです。以前のような手作業、頭の中での作業が今の自分に同じようにできるかと問えば、その自信はまったくありません。話は少々それますが、編集部に身を置く立場でありながら、実は近年、手書きで文章を綴るのが非常に面倒になってきたことも事実。これなどは常日頃、パソコン(ワープロ)に任せっきりで、書き出す前に頭の中で文章を構築するという作業を怠ってきた大きなツケといえるのではないでしょうか。
社会が便利になれば人間は退化する。今の自分はまさにその道を辿っているのかも知れません。人間本来の能力を保ち続けるためには、世の中の進化をただ享受しているだけではいけない。“足があるのに歩かなければ羽根も生えてこない”某大御所フォーク歌手もそう歌っていましたが、もし歩かなければ羽根が生えないどころか足まで退化してしまうことでしょう。気をつけたいものです。
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