新しい〝競馬環境〟の構築(和田章郎)

 今年最初の担当回が2月の声を聞いてから、というのは、なかなかにネタ選びに悩まされるものです。年が替わりますから、できれば新型コロナウイルスの話は控えよう、と思っていたのに、年初にいきなり2度目の緊急事態宣言が発出され、一昨日には期間延長が決まるという状況に。競馬開催は無観客に逆戻りして、今年のGⅠ第1弾フェブラリーSも無観客になるのでしょう。そんなわけで、結局、触れざるを得ない、という結論になりました。

 と言って、暗い話題ばかりを、というわけではありません。

 まず単純に売上比較だけを見ますと、昨年11月29日に行われた伝説(既にそう呼んでいいでしょう)のジャパンCのあと、2歳戦の阪神ジュベナイルF、朝日杯FSが前年比100%超えを記録。これは来季への期待、注目度の高さの表れでしょう(ホープフルSの56.3%は日程の違いもあって度外視)し、古馬のチャンピオンズCに有馬記念はそれぞれ97.9、99.0%にとどまりましたが、このあたりはまあJCロス?の影響かと。
 ただ、そう思いつつも、年明けの東西金杯が中山87.1、京都77.6%と落ち込みが続いた時には一抹の不安も感じられたものですが、緊急事態宣言発出直後のシンザン記念は118.4%と反発し、フェアリーS、京成杯がそれぞれ96.4、83.1%で、最終週のアメリカJCCでは100.2%で東海Sは94.5%。頭数が揃わなかったことが購買意欲を削いだのだろうと思えますから、京成杯の数字を大目に見れるとすると、緊急事態宣言後、全体の売上的にはしっかり踏みとどまっている方なのでは?と思えます。
 これはコロナ禍に翻弄されながらも、年間を通して前年比プラスを計上した昨年の傾向が続いているようで、ひとまず胸をなでおろせる材料かもしれません。
 ただし、まだ1カ月が過ぎたばかりの情勢。油断するには早過ぎるのは間違いありません。でも暗い気分になるのではなく、次を見据えることにしてみましょう。

 コロナ騒動がひとまず収束したとして、そのあとの話。
 通常の生活様式はもちろんのこと、どんなふうに競馬と向き合いましょうや。

 これは、以前とまったく同じ生活様式に戻れるのか否か、という話ではなく、もしも新しい未知のウイルスが登場した際に、どんなような心構え、準備をしていればいいのか、みたいなこと。
 無論、一般の生活様式、思考パターンに触れ始めると多岐に渡りますので、ここではひとまず脇に置いておいて、せめて競馬周辺の話からでも考えてみていいのかなと。

 ご存じの通り、日によって10万人を超す来場者がある競馬は、国内のスポーツ競技の一日に限れば、断トツの観客動員数を誇ります。それだけに指定席ならともかく、スタンド前の一般席──特にタタキ部分での密は避けられません。

 パドックもそうでしょうね。大レースの前とか、私もそうでしたが、ひとつ前のレースの馬券を買ってすぐにパドックに向かい、走る姿はそっちのけでメインに出走する馬達が出てくるのを待つ、なんてことしませんか?パドックで馬を見るスペースを確保するためなわけで、要するにそれだけ混み合う、ということ。

 しかも、歓声ナシ、の競馬観戦もピンとこない。

 パドックではさすがに大声をあげる人はいなくなって久しいです。その昔、乗り役さんに応援の意味でひと声送る、ということはしばしばあって、それはどことなく、歌舞伎で言うところの大向こうに声をかけるようでもあり、周囲の気分も昂まったものでした。そりゃ逆のケースで顰蹙モノもありましたけど…。それでかどうかはわかりませんし、「パドックではお静かに」のプラカード(?)とともに消え失せてしまいました。
 おっと、話を戻しますと──
 無観客の際に出現したいくつか…スタンド前発走のレースでファンファーレに合わせた大合唱とか、ただ周囲を驚かせたり、自己顕示欲を満たすためなのかどうかは知りませんが、突如、怒声を上げる、といったような、はた迷惑行為が排除されたのは歓迎できると思います。でも、かと言って息を詰めてレースを見て、思わず声が出てしまった時に冷たい視線を浴びるってのは、ちょっと違う。はっきりと寂し過ぎます。

 スタンドのタタキ部分やパドックでの密を避け、飛沫を飛ばさないようにレースを観戦する。これだけでも頭の痛い難題です。
 元通りに戻れればいいですけれど、そうじゃない時のためにも対策を練らないと。それこそ、元通りに戻ることがいいのかどうか、も含めて、いろんなことを想定し、検証を繰り返して、前向きに考えなくてはなりません。
 また、上で触れたことというのは競馬場の、それもごくごく一側面の話でしかなく、それこそウインズ、エクセル、その他の関連施設での行動パターンについても、ひとつひとつ細かくチェックしていく必要があるでしょう。

 そのためには、主催者サイドが力強く明確な方向性を示す、というのは勿論としても、ファンサイドも積極的に意見を交わして、主催者サイドと情報を共有しながら、様々な策を先手を打って取り入れる。ひと口に「主催者と情報を共有」なんて書きましたが、従来の発想ではそう簡単にはいかないでしょう。ですから、その方法を考えることから始めなくてはなりません。

 すなわち、新しい〝競馬環境〟を構築する、と言っていいかもしれません。
 そうでなければ、昨年来、そう100年に一度あるかないかのとてつもない経験をしていながら、〝次〟が来た際に、同じように衝撃を受け、同じようにうろたえてしまいかねない。
 ま、ちょっと大袈裟かもしれませんけど、ここはひとつ、競馬愛好者としての叡智を示すべきところじゃないのかなと…。
(本年初回のコラムで暑苦しい話題、大変失礼をばいたしました)

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年福岡県出身 AB型
競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、がモットー。
ようやく新しいことをスタートする準備が整い、忙しい時に限っての悪い癖である〝本読みたい病〟と戦いながら、一歩一歩、の日々です。