最後の秋を染め上げよ(宇土秀顕)

 残暑というよりも猛暑……。そんな暑さもようやく和らぎ、また新たな秋を迎えました。今週のスプリンターズSで秋のGⅠシリーズも開幕します。
 その秋のGⅠ開幕を目前にして私が思い出すのは2年前のこと。今回は2017年秋の話をさせてもらいますが、その前に、まず過去20年のJRA年度代表馬を振り返ってみます。

99年 エルコンドルパサー ○
00年 テイエムオペラオー ×
01年 ジャングルポケット ×
02年 シンボリクリスエス ×
03年 シンボリクリスエス ×
04年 ゼンノロブロイ   △
05年 ディープインパクト △
06年 ディープインパクト ○
07年 アドマイヤムーン  ○
08年 ウオッカ      ○
09年 ウオッカ      ○
10年 ブエナビスタ    ○
11年 オルフェーヴル   △
12年 ジェンティルドンナ △
13年 ロードカナロア   ○
14年 ジェンティルドンナ ○
15年 モーリス      ○
16年 キタサンブラック  ×
17年 キタサンブラック  ×
18年 アーモンドアイ   △

 さて、馬名のあとの記号が何を表わすかというと……。
○→受賞時点で海外遠征の経験があった馬
△→受賞時点で海外遠征の経験はなかったが、受賞後に海外遠征をした馬
×→生涯を通して海外遠征の経験がなかった馬

 以上。ちなみに△の5頭のうち4頭は3歳での受賞でした。この一覧を見ると、〝年度代表馬に輝くほどの馬であれば海外遠征くらいは当たり前〟今はもう、そんな時代であるのだと改めて実感させられます。
 たとえば凱旋門賞。1969年のスピードシンボリから昨年までの50年で、その凱旋門賞に挑んだ日本馬は延べ23頭を数えますが、その23頭のうちの15頭が最近10年に集中しています。この事実ひとつを取っても、ロンシャンへの道は以前とは比べ遙かに広く、そして、見通しのよいものになったことは間違いありません。

 そんな時代の流れを踏まえたうえで〝新か旧か〟という言い方をすれば、キタサンブラックはおそらく旧タイプのヒーローということになるのでしょう。
 MLBに挑む選手が続々と現れる現状に、往年の大投手がつぶやいた言葉が思い出されます。
「チームを背負う立場にある自分が米球界に挑戦するなど微塵にも考えなかった……」
 誤解のないように言っておくと、海外雄飛の志をもって厚い壁に挑むことは素晴らしいこと。それは間違いないでしょう。遠い異国の地で果敢に強豪に挑む日本馬の姿には、眠い目をこすってでも熱いエールを送らずにはいられません。
 ただ、国内で勇姿を見せ続けることも、それと同じくらいに素晴らしい……。だからこそ2年前のキタサンブラックの戦いは強く印象に残るものになったのだと私は思います。
 キタサンブラックにとっては現役最後の秋でした。結果はご存じの通り①③①着。ジャパンCで惜しくも3着に終わり、史上3頭目の秋の古馬3冠制覇はなりませんでした。
 しかし、あのブエナビスタ以来8年ぶりに秋の3戦すべてを1番人気で戦い抜き、あのディープインパクト以来11年ぶりにふたつの冠を手にしたキタサンブラック。この馬が2017年秋の主役であり続けたこと、そして久しぶりに秋の古馬3冠がひとつのシリーズとして盛り上がりを見せたことは競馬ファンの多くが認めるところだと思います。
 その思いは私も同じ。それが宝塚記念の敗戦を受けての判断であったにせよ、最後の秋に3冠フル参戦を表明し、第一弾の天皇賞を制した時点で、そんなキタサンブラックに最大級の賛辞とエールを送りました。
 それが、〝渾身の走りで最後の秋を染め上げよ〟だったのです。

 ちなみに秋の古馬3冠のレース体系が確立されたのは1981年ですが、40年近い歴史のなかで3冠すべてを勝ち取ったのはテイエムオペラオーとゼンノロブロイの2頭だけ。2冠を勝ち取った馬も6頭(重複が1頭)にとどまります。

年  馬 名        天J有      

85 シンボリルドルフ   ②①①
99 スペシャルウィーク  ①①②
00★テイエムオペラオー  ①①①
02 シンボリクリスエス  ①③①
03 シンボリクリスエス  ①③①
04★ゼンノロブロイ    ①①①
06 ディープインパクト  不①①
17 キタサンブラック   ①③①

 そのキタサンブラックは今年6月にまた競馬ファンの間で話題に上りましたが、この馬が顕彰馬になろうがなるまいが、私はもうどうでもいいことだと思っています。
 顕彰馬の定義は〝中央競馬の発展に特に貢献があった馬〟という実に曖昧なものなので、140名もの人間が投票すれば、その結果を妥当と受け取る人がいるのも当然だし、納得できないと思う人がいるのも当然でしょう。
 そもそも、曖昧な定義のもとで投票された結果より、〝語り継ぐこと〟の方がはるかに大切だし、〝語り継がれてゆくもの〟の方がはるかに重みがあるものです。たとえ140名の記者や識者が出した答えが、〝キタサンブラック顕彰に価せず〟だったとしても、キタサンブラックと空間を分け合い、時間を共にしたファンのひとりひとりが、その走りを語り継げばいいだけの話。大事なのは言葉を紡いで後世に伝えることではないでしょうか。
 まあ、ファンの方々以上に、投票した側の人たちこそ、それが本分であり使命でもあるわけですが……。

美浦編集局 宇土秀顕

宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。
昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。一生に一度のチャンスなので無理してでも観に行きたかったラグビーワールドカップでしたが、休日(月・火)に行われるチケットが手に入らなかった以上、生観戦は諦めるしかありません。残念……。