春のG1戦9レース分を振り返るので、今回はさっそく本題に……。
▼高松宮記念……外国馬の初優勝
春のスプリント王決定戦・高松宮記念は香港馬エアロヴェロシティが、1番人気のストレイトガール、連覇を狙ったコパノリチャードらを退けて優勝。1981年の第1回ジャパンCから数えて、24度目の外国馬によるG1制覇となりました。なお、香港馬によるG1制覇は通算5度目。また、この高松宮記念では過去2頭出走した外国馬がともに敗退しており(2003年ディスタービングザピース・米(13)着、同年エコーエディ・米(17)着)、外国馬による初制覇となりました。
一方、エアロヴェロシティを管理するP.オサリバン調教師の父は、1989年にホーリックスでジャパンCを制したD.J.オサリバン調教師。外国人調教師による親子G1制覇はJRA史上初めての快挙となります。
○香港馬のG1制覇
フェアリーキングプローン(2000年安田記念)
サイレントウィットネス(2005年スプリンターズS)
ブリッシュラック(2006年安田記念)
ウルトラファンタジー(2010年スプリンターズS)
エアロヴェロシティ(2015年高松宮記念)
▼桜花賞……ディープ5連覇はならず
桜花賞は逃げたレッツゴードンキが直線で後続を突き放し、桜の女王に就任しました。オークス4連覇のパーソロン超えを目指して、種牡馬ディープインパクトが史上初の同一クラシック5連覇に挑んだ今年。それを阻止したのが、レース史上トップ10に入る着差で圧勝したレッツゴードンキだった訳です。ただ、最終的には〝空前のスローペース〟が話題のほとんどをさらっていった印象は拭えませんが……。
○桜花賞圧勝の記録
大 差 75年テスコガビー
8馬身 87年マックスビューティ
5馬身 42年バンナーゴール
〃 53年カンセイ
〃 61年スギヒメ
〃 82年リーゼングロス
〃 84年ダイアナソロン
4馬身 70年タマミ
〃 97年キョウエイマーチ
〃 15年レッツゴードンキ
▼皐月賞……驚異の7戦4勝!
4コーナで制御難を見せながら、最後は怒涛の末脚。「ドゥラメンテ」とは〝荒々しく〟を意味する音楽用語だそうですが、まさに、その名の通りの勝ちっぷりで、ドゥラメンテがクラシック第一関門を突破しました。
ちなみに、この勝利でミルコ・デムーロ騎手は4度目の皐月賞制覇。歴代単独トップに立っています。それにしても、デムーロ騎手の皐月賞騎乗機会は今年を含めてまだ7回。50%を超える勝率も驚異的ですが、全着順は(2)(1)(1)(12)(5)(1)(1)着。7回のうち6回で着順掲示板を確保する手堅さも驚異的といえるでしょう。
○皐月賞・騎手勝利数ランキング
1位 Mデムーロ・7戦4勝(ネオユニヴァース、ダイワメジャー、ロゴタイプ、ドゥラメンテ)
2位 蛯名武五郎・12戦3勝(ヒデヒカリ、ボストニアン、ヘキラク)
〃 渡辺正人・10戦3勝(タイセイホープ、ウイルデイール、コダマ)
〃 岡部幸雄・29戦3勝(シンボリルドルフ、ダイナコスモス、ジェニュイン)
〃 武 豊 ・21戦3勝(ナリタタイシン、エアシャカール、ディープインパクト)
▼天皇賞……最多勝にリーチ
春の天皇賞は過去2年の雪辱を晴らしてゴールドシップが優勝。通算6度目のJRA・G1制覇を飾りました。ちなみにJRA・G16勝はグレード制導入後、5位タイの記録。そして、JRA重賞勝ちも歴代4位タイの11勝となりました。そのゴールドシップは来週に迫った宝塚記念、ファン投票トップで出走の予定。G1勝ちでも重賞勝ちでも、最多勝に並ぶ勝利を狙います。
○G1勝利数記録
7勝 シンボリルドルフ
〃 テイエムオペラオー
〃 ディープインパクト
〃 ウオッカ
6勝 ブエナビスタ
〃 オルフェーヴル
〃 ジェンティルドンナ
〃 ゴールドシップ
▼NHKマイルC……20年目にきた皐月賞組
創設20年目を迎えたNHKマイルCは、皐月賞から臨んだクラリティスカイが優勝を飾りました。この皐月賞組、過去19年で43頭の出走を数えながら2着が3回あっただけ。1番人気に推されたタニノギムレット(02年)、ペールギュント(05年)、フサイチリシャール(06年)、ローレルゲレイロ(07年)をはじめ、激戦経験が買われて注目される馬が少なくありませんでしたが、20年目にしてようやく、クラシック戦士が矜持を示したことになります。
一方、2着に残ったのがマル外牝馬のアルビアーノ。前回のコラムでも触れたように、かつての活躍が嘘のように影を潜めていた外国産馬。2001年のクロフネ(奇しくもクラリティスカイの父)以来の優勝こそ逃がしましたが、翌02年のアグネスソニック以来、13年ぶりの外国産馬による連対を果たしています。
○皐月賞組のNHKマイルC入着例
97年ショウナンナンバー(3)着
99年マイネルタンゴ(5)着
02年タニノギムレット(3)着
03年エースインザレース(5)着
04年コスモサンビーム(2)着
04年メイショウボーラー(3)着
05年ペールギュント(4)着
07年ローレルゲレイロ(2)着
08年ブラックシェル(2)着
08年ドリームシグナル(4)着
09年フィフスペトル(5)着
10年リルダヴァル(3)着
11年エイシンオスマン(4)着
11年プレイ(5)着
14年キングズオブザサン(3)着
14年ロサギガンティア(4)着
15年クラリティスカイ(1)着
▼ヴィクトリアマイル……こちらは10年目の6歳馬
ヴィクトリアマイルの過去9頭の優勝馬の内訳は4歳が6頭、5歳が3頭。また、2着馬9頭の内訳は4歳が7頭、5歳が2頭。創設以来、4、5歳の2世代による寡占が続いていましたが、10年目の今年、ストレイトガールが6歳馬として初優勝。また、2着も同じ6歳のケイエイエレガントが入りました。ちなみに6歳馬は、それまでに22頭が出走して3着が2回だけ。9年分のデータをアッサリと覆した2頭の6歳馬、そこに18番人気ミナレットの奮闘も加わって、3連単はなんと2070万5810円。3連単史上2番目の高額配当が飛び出しました。ちなみに、ミナレットは生涯2度目の2000万馬券絡み。今春のG1の記録、インパクトの強さではこれが一番だったかもしれません。
▼オークス……忘れな草は30年で4度咲く
「忘れた頃に来るから忘れな草賞だ」、後輩にそんなしょうもない話をしたのはエリンコートが勝った2011年。今年のオークスはそれ以来、4年ぶりに忘れな草賞優勝馬ミッキークイーンが女王に輝きました。前回からたった4年では〝忘れた頃に〟というほどではないでしょう。とはいえ、同レースが始まったのは1984年。32年で4回なら、それはやはり〝忘れた頃の忘れな草賞〟といえるかもしれません。
○忘れな賞優勝馬のオークス成績
84年ダドリアバンブー(3)、85年ワンダーヒロイン(6)、86年リワードシャンティ(16)、87年エリモシューテング不出、88年ホロトアイフル不出、89年メジロマリア不出、90年トーワルビー(10)、91年ツインヴォイス(3)、92年キョウワホウセキ(3)、93年カシワズビーナス(15)、94年チョウカイキャロル(1)、95年イージーマインド不出、96年ナナヨーストーム(15)、97年ナイトクルーズ(7)、98年エリモエクセル(1)、99年エフテービルサド(18)、00年グランパドドゥ(5)、01年アスクコマンダー(12)、02年ユウキャラット(3)、03年マイネサマンサ不出、04年ドルチェリモーネ(9)、05年ジェダイド(6)、06年ニシノフジムスメ(5)、07年ザレマ(10)、08年ムードインディゴ(10)、09年デリキットピース(6)、10年モーニングフェイス(8)、11年エリンコート(1)、12年キャトルフィーユ(14)、13年セレブリティモデル(13)、14年ディルガ(15)、15年ミッキークイーン(1)
▼日本ダービー……1番人気の連敗ストップ
競馬の祭典、日本ダービーは1番人気に応えてドゥラメンテが優勝。この勝利によって止まったのが、春のG1における1番人気馬の連敗でした。厳寒期のフェブラリーSを除けば、春のG1シリーズの事実上のスタートは高松宮記念。その高松宮記念からオークスまで、今年は1番人気が以下の如く7連敗中だったのです。
○2015年春のG1・1番人気の受難
高松宮記念/ストレイトガール(13)着、桜花賞/ルージュバック(9)着、皐月賞/サトノクラウン(6)着、天皇賞・春/キズナ(7)着、NHKマイルC/グランシルク(5)着、Vマイル/ヌーヴォレコルト(6)着、オークス/ルージュバック(2)着。
あるいは〝春全敗〟も、そんな声が囁かれ出したところでのドゥラメンテの優勝。そして、翌週の安田記念も1番人気のモーリスが勝ち、終盤になってようやく1番人気が面目を取り戻したこの春でした。
ところで、春のG1で1番人気が全敗したケースはあったのか? 調べると、どの年も最低ひとつくらいは1番人気が勝っており(12、07、02、99、95、89、82年が1番人気1勝のみ)、下記の通り、1980年まで遡ってやっとその例にたどり着きました。ただ、この当時の春のG1(G1級)は、まだ5つだけ。あくまでも参考記録ということで……。
○1980年春のG1級・1番人気の受難
桜花賞/ラフオンテース(4)着、皐月賞/トウショウゴッド中止、天皇賞・春/シービークロス(4)着、オークス/コマサツキ(9)着、ダービー/モンテプリンス(2)着
▼安田記念……2頭合わせてG1に0戦
春のG1シリーズを締め括る安田記念(番組編成上は夏ですが)は、前述の通り1番人気のモーリスが快勝。管理する堀調教師は通算3度目の安田記念制覇、そして、ダービーに続いて2週連続のG1制覇を飾りました。
それにしてもこのモーリス、今回の安田記念までキャリアは10戦、そして、G1も未経験。G1昇格後の安田記念において、G1初挑戦での優勝は5頭目となります。なお、そのモーリスをクビ差まで追い詰めたヴァンセンヌもまたG1初挑戦。G1初挑戦馬のワンツーというのは、G1昇格後32年の歴史の中で89年の1着バンブーメモリーと2着ダイゴウシュールに続いて2度目になります。
○G1初挑戦馬による安田記念制覇
84年ハッピープログレス
89年バンブーメモリー
05年アサクサデンエン
10年ショウワモダン
15年モーリス
美浦編集局 宇土秀顕
宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。
昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。〝超ロングリリーフ〟となった当日版の予想からも現在は外れている(人手が減れば復帰の可能性あり)。『リレーコラム』から『週刊トレセン通信』となり、内勤編集員という立場で執筆者に残ることは肩身が狭いが、競馬の世界、馬の世界を他所から覗きに来た人に、「けっこう面白いトコですよ」と手招きするような、そんなコラムが書けたらと考えている。ちなみに、東京生まれのくせに都会が嫌い、人ごみも嫌い、そして、人付き合いもあまり得意ではない。狭いところが大の苦手、高いところもちょっと苦手。なのに趣味は山歩き。
東京のG1シリーズが終了し、5週間のブランクを埋めるべく〝調教再開〟。1本目の筑波山で足を慣らし、2本目は谷川岳連峰の白毛門(しらがもん)へ。ここの急登でヘロヘロになりました。夏休みに入る一線級の馬たちとは対照的に、これからピッチを上げていく予定です。