上越新幹線にしろ、東北新幹線にしろ、必ず通る大宮駅。
上りで言うとその大宮に着く3分くらい前か、進行方向左手に現れる大きくて長い建物が一度は行ってみたいと思っている鉄道博物館。
先日、新潟に1泊してからの月曜帰り、昼間に通過すると車窓とほぼ同じ目線にあるレストランに家族連れの姿が何組か……。
営業を開始していたことに初めて気がついた。
よくよく考えてみたら、鉄道博物館だけではなく、美術館や科学館などの施設も制限を設けながらでも営業を開始してから2カ月以上経っているのではないか。
ついつい、競馬の感覚で世の中を見てしまっているところがある。
新幹線がいまだにガラガラに近い状態だということも感覚を鈍らせているのかもしれない。
いずれにしても少しずつ経済活動は復活していて、そのほとんどの施設からクラスターが発生したというニュースは流れてこない。
一方、競馬は9月いっぱい無観客で行われることが決まった。
3回新潟開催で一転しての無観客競馬続行により、ほぼ見えていた道筋ではあったけれど、今の段階で1ヶ月先まで決まったのは少し驚きで、非常に残念だった。
売り上げは相変わらず好調だ。
前年比100パーセントを割り込むことはあっても、ほんの数日で僅かなダウン。
リスクをおかす必要はないのだろう。
もしも、秋のGIシリーズが春のように無観客で行われるとなると、無敗の三冠馬。それも牡牝同時の達成もお客さんの目に触れないところで誕生することになる。
ファンのほとんどが直接、見たことのない馬が、歴史に名を残す。
忘れられない出来事として記憶に残ることは間違いないだろう。
ただ、これがいいことだとは思えない。
この夏にデビューした2歳馬にとっては無観客の競馬場しか経験したことがない。
ファンは誰ひとりとして見たことのない馬が、GIで争い、クラシックでも争う可能性がある。
そして何よりも、昔から競馬を楽しんでいるファンにとっては映像だけでも十分に楽しめるかもしれないが、新しいファンを獲得するのに生で見れないままでいいのだろうかとも思ってしまう。
馬券だけではない魅力。他の競技にはない開放感。それと馬、個体としての躍動感や美しさ。
果たして、映像だけでどこまで伝わるものだろうか。
先々月の7月場所。チケットを何とか確保して、国技館で相撲を見ることができた。
ひとりでひと枡。何度も足を運んでいる自分としてはそれ自体が魅力ではあったが、いざ、中に入ってみると力士の大きさと力強さにあらためて感心して、いつもは聞こえない音に気分も高揚した。
体がぶつかり合う音、呼び出しの声、拍子木の音、そして、力士のしこの音や息づかいまでハッキリと聞き取ることができた。
テレビでも面白さは十分に伝わるかもしれない。それでも現場に来ればその何倍もの情報を得ることができて、本当の面白さがより伝わるのではないだろうか。
実際に無観客での競馬は普段聞けないジョッキーの馬を叱咤する声が結構、聞こえてくる。
コロナ前は競馬も現場で、大勢で楽しめることを薦めてきたような気がする。
昔の状況がすぐに取り戻せるとは思えない。それでも、少しずつ、今まで競馬場で楽しんできたお客さんに還元することはできないだろうか。
命を守れる範囲内で、盛り上げて楽しむことには何の問題もない。
オリンピックができるかできないの状況下で、こんなことを言うのは不謹慎かもしれない。
新しい生活様式に慣れない自分が駄目なのかもしれない。
それでも、あの熱気と興奮こそが生きることそのものではないかと思う。
秋華賞、そして何よりもコントレイルが挑む3000㍍の菊花賞。
馬券だけではなく、久しぶりにレース前から緊張しそうだ。
それを限られた人数でも、現場でファンに楽しんでもらいたい。
こう思うことさえも悪いことなのだろうか……
美浦編集局 吉田幹太
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。