春はいつでも別れと出会いの季節なのだが、このところ別れが続いた。3月19日にマイネル軍団の総帥、岡田繁幸さんがなくなった。私のような一記者と競走馬の生産者は通常、接点はないが、ふとしたきっかけで新宿で開催されたラフィアンターフマンクラブの会員さん向けのパーティーに呼ばれたのだ。会員という訳ではなく、厩舎関係者という訳でもない微妙な立場だったが、そこで聞いた挨拶は印象に残っている。メディアにも積極的に出られたのでご存知の方も多いだろうが、あの名調子だ。大いに笑わされて貰ったし、楽しませて貰った。さすがにカリスマと呼ばれただけのことはある。残念ながら目標の日本ダービー制覇は叶わなかった。このところ各方面から別れを惜しむ声が出ているし、一ファンとしてやはり寂しい。

 正確にはまだ籍を置いているので退社したのではないが、同期入社の山田理子トラックマンが記者生活を3月一杯で終えた。これで同期は牟田トラックマンと私の二人だけになった。家庭の事情ということで競馬が嫌いになったのではなく、体調面やトラブルを起こしたのではないから、続けたい気持ちはあったようだが、こればかりは致し方ない。本人は前向きに新しい世界に入って行こうとしているので応援するほかない。ところで最後の推奨馬で触れていたように我々が入社したのはナリタブライアンが三冠を達成した年だった。当時はオグリキャップから連なる競馬ブームの真っ只中で深い考えもなしに、この世界に飛び込んだが、今になって振り返るとちょうどいい時期に入ったものだ。その後にもディープインパクト、オルフェーヴル、更にコントレイルと数字の上ではブライアンを上回るような三冠馬が誕生したが、私の中ではやはりナリタブライアン。あの全盛期の力強い走りは忘れられない。

 残念なニュースもあった。昨年の夏ごろから話題になっていた笠松競馬の八百長疑惑。4月1日に公表された「笠松競馬不適切事案検討委員会」の報告書によると関係者の間で情報を共有しての共同馬券購入やセクハラ被害の申告もあったという。目を覆いたくなるようなものだが、あくまでもほんの一部の人間がやったものだと信じたい。50歳を超えるレジェンド武豊騎手も骨折を乗り越えてリハビリを続けているようにほとんどの厩舎関係者はそれこそ命がけで仕事に取り組んでいる。我々マスコミも微力ながら競馬の面白さを伝えようと頑張っていて不正は絶対に許せない。

 ちょうど1年前の今日、4月7日はわが国で新型コロナによる1回目の緊急事態宣言が出された日だった。やや記憶が薄れつつあるが、当時はワクチンが開発されていた訳でもなくほぼ全世界的に流行が拡大し、未知の不安が先立ってとにかく恐れていたような気がする。幸いにして中央競馬は無観客ながらストップすることなく続いて個人的なことを言えば毎週の美浦通いと競馬場での取材もあって日常に大きな変化はなかったが、漠然とした不安はあった。そう考えると現状はウイルスの活動が終息した訳ではないのに緊張感に欠けているかもしれない。過去の大規模な感染症の歴史を見ても数年は活発な活動が続くのだからしばらくは我慢が必要だろう。先週から中山でも有観客競馬が再開されたが、自粛と自衛を怠りなく。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 О型
3歳クラシック路線も今週の桜花賞からいよいよスタート。昨年は歴史的な牡牝同時の三冠誕生に沸いたが、今年はどうなるか。桜の開花が早く残念ながら満開の華の下でのレースにはなりそうもないが、今週注目しているのは同日に3歳牝馬同士で行われる忘れな草賞を予定しているシュレンヌ。外国馬ながらエリザベス女王杯を連覇したスノーフェアリーの半妹で経験馬相手の初戦を快勝した。桜花賞には間に合わなかったが、ここを勝つとオークスが楽しみになる。