43年目の引っ越し(田村明宏)

 ちょうど1週前の11月9日から美浦南スタンドが少しだけ移転し新スタンドの供用が開始された。旧スタンドは美浦トレセンが開業した1978年から使用されていて老朽化が進んでいたし、以前の基準で建築されたもので耐震設計も十分ではなかった。事実、2011年の東日本大震災のあとは部分的な補修こそされたものの痛みも目立っていた。栗東スタンドの方は一足先に3年前に改修されていたので耐用年数の問題もあったのだろう。だが、一方で新スタンドへの移転は美浦トレセンの大改修の一環でもある。Wコースの改修に始まり、南馬場への障害コースの移転。次には坂路コースの改修も行われる予定だ。1980年代末から始まって現在まで続く、中央競馬における西高東低の格差を解消するための施策で一連の大がかりな工事が行われている。

 秋のGⅠシーズンまっただ中でまだ、旧スタンドの撤去も済んでない現状だけに手探りな面もあるが、施設の改良というハード面だけでなくそれに対応するソフト面でも変化が起きている。南スタンドの移転に先立つ7月末からWコースではICタグを利用した調教タイムの自動計測が始まって概ねラスト3Fまでの計測時計は変わらなかったが、ラスト1Fに関しては1秒くらい速くなって11秒台が簡単に出るようになっている。以前であればオープン馬でも11秒台後半などは滅多に出なかったが、自動計測になってからはザラでタイムそのものよりもどんな手応えでそれが出たかということや足捌きを見極めることは大きな意味を持つようになった。更に厩舎取材に関しては旧スタンドでも新型コロナ対策で調教師や騎手と言った関係者のフロアへの立ち入りが規制されていたのが新スタンドではコロナの影響がなくなっても基本的に立ち入りを禁止されるようになった。昨今は一般社会でもスマートフォンの普及でテレワークの導入が進み、競馬取材の現場でも取り入れられているが、やはり長年、取材してきた我々は相手の目を見て直接、聞くことが習慣化されている。それが今後もできないとなるとただ、コメントを聞くだけではなく、その背景にある情報を処理する能力を試されることになる。

 先週までの秋のGⅠは関東馬が3勝2敗と現時点では優位に立っている。そういう意味ではまだ完成はしてないが、美浦トレセンの改修の成果は出ていると言えるかもしれない。中山大障害を含めると残り8つのGⅠレースでどれだけ関東馬が活躍するのか?美浦スタンドの引っ越しに伴って起きる変化に戸惑っている現状だが、我々取材者も工夫しながら新たな時代に対応しなければいけない。

美浦編集局 田村明宏

 田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
新スタンド使用から2週目だが、取り壊しの準備が進んでいる旧スタンドは早くも廃墟感が漂い、つくづく時間の経過の速さを実感している。今週の注目馬は新スタンドの真新しいインタビュースペースを2週続けて使用して記者会見が行われた手塚厩舎のシュネルマイスター。先週のウインマリリンについて語った時の重苦しい雰囲気とは一変、横山武騎手の笑顔が印象に残った。