宝塚記念が終わると、栗東トレセンは5時開場に。函館が始まって人も馬も減り、追い切る数自体が少なくなっているため、後半はこの時季ならではの閑散とした雰囲気になる。3時台に起床せねばならないこの時間帯には何年経っても慣れずとにかく眠い……。そのうえに馬がまばらでまったりと時が流れるので、時に眠気との戦いになるのだが、夏競馬特有の“まったり”だからこそ、面白い話が聞けることがある。
毎週木曜日は障害試験が行われ、5時開場の夏時間では7時30分から試験が開始される。時計を採って、飛越を観察して、試験官に合否を確認してからジョッキーが集う休憩室に向かうのが私のルーティーン。ジョッキーのなかには予定していたすべての調教騎乗をこなしたあともそそくさと帰ることはせず、仕事の余韻を残して休憩室で“まったり”過ごす人がいる。この日、残っていたのは北沢、高田、難波、田村騎手。最近はスマホのアプリで将棋をしていることが多いのだが、珍しく全員がハンドフリー。(ラッキー、今日は話かけることができる)と思った。今日の試験のこと、波乱の結末だった東京ジャンプSの回顧、そのメンバーの戦歴、年別に丁寧にファイリングされた障害競走の結果……。次から次へと話題は移っていく。いつもながら関係者の話は新鮮だ。1時間ひとりで馬を観察しているより、実際に馬を触っている人たちの話を10分間聞いたほうが、断然実になるのではないかと感じる。会話はひと段落した時がチャンス。かねてからの疑問をこちらからぶつけてみた。
「障害戦のオープンって、未勝利戦で強い勝ち方をしてきた昇級組より、オープンで負けている馬のほうが、トータルで見たら買いではないですか?」
先日の東京ジャンプSで、10番人気、単勝58.5倍で5馬身ぶっち切ったサーストンコラルドがそう。福島で未勝利を圧勝し、1番人気のオープン緒戦(新潟)でコロッと敗退。そして、クラス2戦目、東京ジャンプSがあの勝ちっぷりだ。
「経験の違いだよ、経験」と一同。
「未勝利で飛越がうまくて優位に立って運べていても、オープンに入ると他もうまいから、道中のアドバンテージがない。だから、ちょっと躊躇したりミスがあると一気に置かれて、一度ポジションが下がると挽回するのが難しい。オープンは流れが違うよ。障害戦は平均ラップがコンマ2秒違ったら、全然競馬が違う」と言う。「マテンロウハピネス、ジャズファンク(オープン緒戦で1、2着)みたいに平地力があればまた別だけど、普通は厳しい」とも。私自身の予想、馬券の経験からも「昇級緒戦はとりあえず1回、様子を見る」を基本スタイルとするべきかと思う。
すべてはトータルの的中の確率を上げるために。レッツトライ。
栗東編集局 山田理子
山田理子(調教・編集担当)
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。