平地キャリアと伸びしろ(坂井直樹)

 こんにちは、小倉滞在中の障害戦大好きおじさんです。

 今年も小倉に滞在している石神深一騎手に取材していた時、こんな話になりました。

「昔は、オープンや準オープンで走っていた馬ではなく、平地未勝利や1勝クラスで走っていた馬の方がジャンプGⅠをよく勝つよね、という話をほかのジョッキーと話していたことがあるんです」

 99年の第1回中山グランドJ以降のJGⅠ勝ち馬32頭のうち日本調教馬29頭について見ると、その初障害時点での平地クラスは、

未勝利=9頭
1勝クラス=8頭
2勝クラス=5頭
3勝クラス=4頭
オープン=3頭

 という感じで、石神深騎手に教えてもらった通り、半分以上が未勝利か1勝クラスで走っていた馬でした。それがなぜか、ということについて石神深騎手は「障害戦に来る前に数を使っていない馬の方が、障害入りしてからの伸びしろが大きかったりもするんですよ」と。なるほど。

 では、初障害までの平地でのキャリアごとに成績を出してみたら何か偏りが出てくるのでは?ということで調べてみました。調査対象とした馬は2020年1月1日から2024年12月31日までに障害戦に出走した馬。成績集計期間は2024年末までとしました。

◎勝ち上がり率
平地2~5戦( 85頭)勝ち上がり率28.2%
平地6~10戦(292頭)勝ち上がり率34.9%
平地11~15戦(320頭)勝ち上がり率30.6%
平地16~20戦(255頭)勝ち上がり率33.3%
平地21~30戦(381頭)勝ち上がり率36.7%
平地31戦以上(209頭)勝ち上がり率35.6%

◎障害通算成績
平地2~5戦( 47- 36- 46- 450/ 579)勝率8.1%、連対率14.3%
※除くオジュウチョウサン(29-34-42-442/547)勝率5.3%、連対率11.5%)
平地6~10戦(155-155-160-1434/1904)勝率8.1%、連対率16.3%
平地11~15戦(156-159-166-1302/1783)勝率8.7%、連対率17.7%
平地16~20戦(136-132-138- 950/1356)勝率10.0%、連対率19.8%
平地21~30戦(202-180-201-1381/1964)勝率10.3%、連対率19.5%
平地31戦以上(109-155-115- 868/1247)勝率8.7%、連対率21.2%

◎初障害
平地2~5戦( 1- 1- 2- 81/ 85)勝率1.2%、連対率2.4%
平地6~10戦( 6-11-11-264/ 29)勝率2.1%、連対率5.8%
平地11~15戦( 9-10-16-285/320)勝率2.8%、連対率5.9%
平地16~20戦(14- 7-14-220/255)勝率5.5%、連対率8.2%
平地21~30戦(18-19-25-319/381)勝率4.7%、連対率9.7%
平地31戦以上( 6-20-10-165/201)勝率3.0%、連対率12.9%

◎未勝利戦
平地2~5戦( 24- 26- 30-294/ 374)勝率6.4%、連対率13.4%
平地6~10戦(102- 95-104-933/1234)勝率8.3%、連対率16.0%
平地11~15戦( 98-112-114-920/1244)勝率7.9%、連対率16.9%
平地16~20戦( 85- 85- 85-650/ 905)勝率9.4%、連対率18.8%
平地21~30戦(140-120-135-831/1226)勝率11.4%、連対率21.2%
平地31戦以上( 72-109- 82-565/ 828)勝率8.7%、連対率21.9%

◎オープン戦
平地2~5戦(23-10-16-156/205)勝率11.2%、連対率16.1%
※除オジュウ( 6- 9-13-149/177)勝率3.4%、連対率8.5%
平地6~10戦(53-60-56-501/670)勝率7.9%、連対率16.9%
平地11~15戦(58-47-52-382/539)勝率10.8%、連対率19.5%
平地16~20戦(51-47-53-300/451)勝率11.3%、連対率21.7%
平地21~30戦(62-60-66-550/738)勝率8.4%、連対率16.5%
平地31戦以上(37-46-33-303/419)勝率8.8%、連対率19.8%

 平地キャリア2~5戦の馬の成績がいいのはオジュウチョウサンの影響を多分に受けているので取り扱いには注意が必要です。極端に平地キャリアが浅い馬は全体に低調ですが、注目は平地11~20戦の馬で、11~15戦の馬の勝率は初障害2.8%から始まり、未勝利戦全体で7.9%→オープン10.8%と、キャリアを積むごとに成績を上げていると言える傾向が見られました。同様に16~20戦の馬は5.5%→9.4%→11.3%という伸びを見せています。

 このキャリアは4、5歳が中心。なるほど、伸びしろの大きそうなタイミングといえそうです。長い目で追いかけていける障害戦だからこそ、伸びしろのあるなしは気にしてしまうところ。馬券の参考にもできそうです。平地の成績は、勝利数や所属クラスだけではなく、こんなところにも注目してみるのも面白いかもしれません。

栗東編集局 坂井直樹

坂井直樹(調教・編集担当)
昭和56年10月31日生 福岡県出身 O型
 石神深騎手は「キャリアが浅く若い馬は、休養を挟むことでグンと成長して戻ってくることが多いんです」とも教えてくださいました。私が見てきた馬だと今週末の小倉ジャンプSに出走するスマイルスルーがそれで、当初の取材メモには「体重の割に線が細い」。それが昨春、体重に見合ったパワーがついて見違えるほどしっかりし、そこから3連勝で重賞勝ちに至りました。この馬の平地キャリアはわずかに9戦。明けて5歳、まだまだ強くなることでしょう。