JRAのいわゆるグレード制導以降、1984年からの皐月賞で単勝2倍以下の支持を受けた馬は今年のクロワデュノール(1.5倍)まで11頭いました。人気に応えて勝ったのは1984年シンボリルドルフ(1.5倍)、1992年ミホノブルボン(1.4倍)、1994年ナリタブライアン(1.6倍)、2001年アグネスタキオン(1.3倍)、2005年ディープインパクト(13.倍)、2017年サートゥルナーリア(1.7倍)の6頭です。そのうち4頭は次の日本ダービーも勝ち、3頭は三冠馬となりました。敗れた4頭のうち、1993年ウイニングチケット(2.0倍、4着)、1998年スペシャルウィーク(1.8倍、3着)、2009年ロジユニヴァース(1.7倍、14着)は次の日本ダービーで巻き返して優勝しているので、皐月賞で圧倒的1番人気になった時点である程度将来は保証されているようなものです。
 同じ期間の41頭の皐月賞2着馬は36頭が日本ダービーに出走(1頭は競走除外)し、5勝2着5回3着4回4着6回5着以下16回の成績を残しました。勝ったのは1989年ウィナーズサークル、1990年アイネスフウジン、1995年タヤスツヨシ、2016年マカヒキ、202年タスティエーラで、タヤスツヨシとマカヒキの間は21年ものブランクがありました。これはこれで意外に難しいものです。
 クロワデュノールの父キタサンブラックは1月の新馬戦から2月の500万下条件戦、3月のスプリングSG2まで3連勝して、4番人気で臨んだ皐月賞G1では先行してよく粘り、ドゥラメンテ、リアルスティールに続く3着。日本ダービーG1はやはり先行しましたが、伸びを欠いて14着に終わっています。その後もときどき負けはしたものの、菊花賞G1、天皇賞(春)G1・2回、ジャパンカップG1、大阪杯G1、天皇賞(秋)G1、有馬記念G1の7つのG1を制しました。特に高速先行からレコードで押し切った天皇賞(春)G1、泥濘ともいえる不良馬場を力強く抜け出した天皇賞(秋)G1など、5歳時のパフォーマンスは圧倒的な力と適性の幅の広さを示すものといえるでしょう。
 種牡馬となって初年度産駒からイクイノックスとウィルソンテソーロ、2年目の産駒からソールオリエンスが出ました。イクイノックスは4歳時にG1ばかり4戦4勝、ジャパンカップG1のパフォーマンスは2023年ワールドベストレースホースランキングで135の評価を得て1位となりました。そんなイクイノックスも無敵の強さを見せるようになったのは3歳秋の天皇賞(秋)G1以降で、皐月賞G1ではジオグリフに、日本ダービーG1ではドウデュースにそれぞれ敗れていました。これら父仔の最高レベルのパフォーマンスが示されたのは少なくとも3歳春ではなかったのは事実といえるでしょう。
 クロワデュノールの母ライジングクロスは2~5歳時32戦をこなして5勝を挙げたタフな牝馬で、2歳時には11戦3勝、プレスティージSG3で2着となっています。3歳時は英オークスG1で2着、愛オークスG1で3着、9月にその年はヨーク施行の牝馬版セントレジャーのパークヒルSG1(13F197y)に勝ちました。その後も勝てないまでもロイヤルオーク賞G1やヨークシャーカップG2、ゴールドカップG1の超長距離戦で牡馬に挑んだステイヤーでした。5代母ウインドミルガールはブレイクニーとモーストン、2頭の英ダービー馬を生んでいます。これら父母両系の晩成傾向とステイヤー的資質を見れば、距離が延びる次は今回よりも条件が好転するのは確かです。そしてその更に先にはよりスケールの大きな成長を示す可能性もあるのでしょう。

関西編集局・水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身。1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。栗東トレセンの調教開始時と終了時の気温差が大きくなってきました。このごろは冬が終わるとすぐ夏になっていまいますが、競馬ファンは少なくとも桜花賞から天皇賞(春)までは春を感じられるのではないでしょうか。といっても、今週あたりからゲートや馬場で時計を出し始める2歳馬も増えて、夏競馬の気配が強まってきそうです。