一般的に3月は卒業シーズン、4月は新年度の始まりだが、中央競馬は1カ月予定が早く2月を最後に定年厩舎が解散。3月から新人騎手、新規開業厩舎がデビューし、既に多くの話題を振り撒いている。
そんななか、ひと足早く、年明けの1月に新天地デビューした馬がいる。昨年まで重賞戦線で活躍したアサマノイタズラ、ヒシイグアスの2頭が中山競馬場に誘導馬となって登場したのだ。
アサマノイタズラは2021年のセントライト記念で重賞初制覇。エフフォーリア、タイトルホルダーらと鎬を削り、皐月賞や菊花賞、有馬記念にも参戦した。年が明けた1月6日、開催2日目の中山競馬場。その日は午後のレースから騎乗予定だった嶋田純次騎手もかつての相棒の晴れ舞台に1Rから駆け付け、再会を果たした。「今日、誘導馬デビューと聞いたので少し早く来ました。立派になりましたね」と感慨深げ。「アサマの誘導するレースで勝たないとね」というこちらの問いに「そうですね!頑張ります」と意気込んでくれた。

1Rの誘導が終わると、地下馬道にあるモニターで仲良く一緒にレースを観戦する場面も。ファンファーレの音に少し反応するような場面はあったが、概ね大人しく、冷静に後輩たちの走る姿を見つめていた。

アサマノイタズラに続くように1週間後、1月12日にデビューしたのがヒシイグアス。現役時代は香港カップや宝塚記念で2着するなどGⅠにはあと一歩のところで手が届かなかったが、中山金杯や中山記念など重賞を3勝。この中山競馬場では全7勝のうち5勝を挙げる強さを誇った。

私の所用によりデビュー当日は会うことができなかったのだが、翌週にその姿を見ると誘導馬に成り立てとは思えないほど落ち着き払い、堂々とした姿が印象的だった。アサマノイタズラもだが、ヒシイグアスもなかなか優秀なようで、後方誘導から先頭誘導、ダートのレース、芝のレースと段階を踏みながらもドンドンと出世するかのように業務をこなしていった。引退して間もないだけに、一般的に芝のレースやスタート地点が近いレースだと気が入ってしまったり、時に走り出してしまわないかといった懸念もあるようだが、問題なかったようでヒシアグアスの学習能力の高さが窺える。また返し馬で騎手を振り落としたり、立ち止まって進んでいかなくなってしまった若駒がいると、すぐさまサッと寄り添い補助するその姿はもう一人前の誘導馬そのもの。とても頼もしく映り、若駒にとっては頼りがいのあるお兄さんといった感じだろう。
先日、3月2日に行われた中山記念では先頭で出走馬を誘導して馬場に入場。2021年、2023年とかつて自身が2勝を挙げた重賞に誘導馬として帰ってきた瞬間だった。

あくまで主役はレースで走る馬たち。それでも、後輩たちが晴れ舞台でしっかりと力を出せるよう、アサマノイタズラとヒシイグアスは今日も暖かく見守りながら戦いの場へと導いてくれるだろう。

赤塚俊彦(厩舎取材担当)
1984年7月2日生まれ。かに座。千葉県出身。2008年入社。美浦編集部。
X(旧Twitter)やってます→@akachamp5972
アサマノイタズラもヒシイグアスもGⅠにこそ手が届きませんでしたが、第2の馬生として新天地で大活躍。先日、スタンドを歩いていると「あ!ヒシイグアスだ!」「今、誘導馬やってるんだ」と言うファンの方の声が聞こえてきました。その知名度と話題性はやはり抜群。勿論、レースを補助し、華を添えてくれているのは2頭に限りません。
東京競馬場のボスジラ、阪神競馬場のアフリカンゴールドやシロニイ、京都競馬場のペルシアンナイト、函館競馬場のクリンチャー、小倉競馬場のウメムスビなどなど、全国各地に人気者がたくさん。私のこのトレセン通信に何度も登場しているトーラスジェミニも福島競馬場で元気に活躍しています。機会があれば是非、会いにいってあげて下さいね。