2月22日にサウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われたサウジカップG1は日本から遠征したフォーエバーヤングが優勝、フランス・ギャロ発表のレートで約15億7千万円の1着賞金を手にしました。レースは最終コーナー手前から外に持ち出して一気に加速した香港のロマンチックウォリアーIREが前を行くフォーエバーヤングを抜き去り、残り200m地点では差を2馬身ほどに開いてそのまま押し切って圧勝かと見えたところ、諦めることなくロマンチックウォリアーIREを追いかけたフォーエバーヤングが残り50mで並びかけて捉え、クビだけ前に出たところがゴールでした。3着に追い込んだウシュバテソーロはそこから10馬身半離されていました。
かつてダンシングブレーヴUSAが圧勝した凱旋門賞G1に欧州競馬の斜陽を見た山野浩一さんなら何といっただろうかと考えますが、私は競馬の中心がアジアに移ったとまではいわないまでも、多極化した世界競馬のひとつの極になっているのは間違いのないところだと思っています。
今回のサウジカップG1は、昨年のブリーダーズCクラシックG1勝ち馬シエラレオーネや今年1月のペガサスワールドカップ招待SG1の勝ち馬ホワイトアバリオら出走が期待された有力馬が回避し、米国調教馬はラトルンロール1頭だけになってしまいましたが、何が出ていたとしても、あの2頭を脅かすことができたかどうか。それは甚だ疑問と感じます。
ロマンチックウォリアーIREは僅差でも必ず勝つことを身上としているプロフェッショナルな競走馬なので、過去18勝で2着につけた着差は平均で0.249秒≒1馬身半に過ぎず、ぶっち切りの圧勝はまずしませんが、今回はフォーエバーヤングがいたからこそ伸び続け、フォーエバーヤングはロマンチックウォリアーIREが伸びれば伸びるだけ追いかけたので、結果的に3着以下は前述の通りの差がつきました。たらればを許されるなら、シエラレオーネがいてもホワイトアバリオがいても、2着と3着の間の10馬身半のどこかに食い込むくらいだったのではないでしょうか。
国際レーティングがどの程度になるかを推測してみると、10馬身半差3着のウシュバテソーロの持ちレーティングは119。更に1馬身3/4差4着のウィルソンテソーロは117。そこからクビ差5着の米国馬ラトルンロールが115、1馬身差6着ラムジェットが116なので、どの馬を基準としても理論上はフォーエバーヤングには天井ともいえるフライトラインの140、ダンシングブレーヴUSAの141に匹敵するレーティングが付けられる可能性があります。フォーエバーヤングは米国では2度3着に敗れている馬なのでそこは慎重な評価をすべきという意見が出ることも予想されますし、ロマンチックウォリアーIREにも1点差のレートが付くので、そのような天井近辺のレートがいっぺんに2頭につけられるだろうかという疑問も生じますが、どのあたりに落ち着くか興味深いところではあります。
フォーエバーヤングの父リアルスティールはディープインパクト直仔で2歳暮れの新馬勝ちから共同通信杯G3を連勝してクラシックに臨みましたが、皐月賞G1はドゥラメンテの2着、東京優駿G1もドゥラメンテの4着、菊花賞G1ではキタサンブラックの2着と苦労を重ね、4歳となって挑んだドバイターフG1で5番手から抜け出してG1初制覇を果たします。エーピーインディ系コングラツ産駒の母フォーエヴァーダーリングUSAは米2勝。3歳1月にサンタイネスSG2に勝っています。デピュティミニスター産駒の祖母ダーリングマイダーリングはレーヴンランS、ダブルドッグデアSといったリステッド格のステークスを含む5勝を挙げ、フリゼットSG1、メイトロンSG1で2着となりました。その孫に昨年のケンタッキーダービーG1・2着馬にしてブリーダーズCクラシックG1勝ち馬、エクリプス賞最優秀3歳牡馬に選ばれたシエラレオーネがいます。
シエラレオーネの昨年の国際レーティングは125で奇しくもロマンチックウォリアーIREと同じ。フォーエバーヤングにとってイトコで宿敵でもあるシエラレオーネをバーチャルで負かしたともいえますが、これは現実に再戦を望みたいところですね。昨年と同じ舞台、ブリーダーズCクラシックG1でもいいですが、チャンピオンズCG1に巨額の褒賞金(16億円くらい)を設定したら来てくれないでしょうか。
栗東編集局 水野隆弘
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身。1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。サウジカップ開催のグループ競走は今年からリヤドダートスプリントとレッドシーターフHがG3からG2に昇格しました。ネオムターフCと1351ターフスプリントは昨年からG2に昇格しています。このまま順調に行くと来年、再来年とG1に昇格するレースも出てきそうです。楽しみだなあ。辛いなあ。