6階記者席のゴンドラから、丹羽TMが他社TMと2人で身を乗り出してファンエリアを覗き込んでいる。

私「どうしたん?」
丹羽TM「いや、今日お客さん多いなあと思って」

 確かに朝から、ゴール前でお客さんの声がよく聞こえていた。開催初日を2595人の入場者数で迎えた冬の小倉開催は、3000人を超えたのが2日目の3413人だけで、あとはおおよそ2000人台。それがこの日は5742人。おおよそ倍以上のお客さんが入った。丹羽TMの感想は当然だったと思う。

私「まあ、小倉の人間にしてみればGⅠみたいなもんだから」

▲コース沿いにはたくさんのファンが集まった

 これは小倉出身の私の本心。競馬ファンなら知っている馬や騎手が小倉に来る重賞をみんなが待ちに待っている。コロナ禍前の2019年、小倉記念には1万2964人、北九州記念には1万6244人の入場があった。コロナ禍直前の2020年冬の開催、小倉大賞典の日の入場者数は1万8306人。夏の2レースより多いのはGⅠフェブラリーS当日ということもあるだろうけれど、本当に心待ちにしている。この日、ゴール前は黒山の人だかりだった。

 そうして迎えた本馬場入場。出走馬が次々に返し馬へと移行するものの、なかなか1番人気のアリーヴォが入場してこなかった。パドックで横山和生騎手が騎乗した際に暴れて転倒するアクシデントがあったからだが、人馬とも、大事に至らなかったことが幸い。返し馬でも転倒の影響は感じられなかった。

 レースは、この開催ではよく目にした、荒れた内を大きく開けた隊列。ノルカソルカが主導権を奪い、これにトップウイナー、そして戦前から積極策を匂わせていたジェネラーレウーノが続く。ヴァイスメテオールは4番手で早めの立ち回り。前半1000m61秒0は馬場状態を考慮しても遅い。ヴァイスメテオールのポジションなら絶好のペースだったと思うが、それで却って力んでしまったようにも映った。ランブリングアレーはヴァイスメテオールをマークするように、アリーヴォはそのランブリングアレーを更にマークするように、隊列の外側にラインを形成していた。

▲内をすくってトップウイナーが先頭で直線へ

 勝負どころでトップウイナーがラチ沿いを選択。距離を稼いでノルカソルカの内をすくっていく。ノルカソルカは大きく内を開けて馬場のいいところを選ぶ。ヴァイスメテオールを先頭とした有力馬のラインは更にその外から前を窺った。

 ただここでヴァイスメテオールはラジオNIKKEI賞の時ほどスッと反応できなかった。やはり力んでいたのか、馬場の影響なのか、それとも18キロ増えた体が重かったのか。ランブリングアレーも決して楽に動けたわけではなかったが、それでもヴァイスメテオールには難なく並びかけ、ここで相手をアリーヴォと見て外へ体を寄せていく。

 この2頭に比べ、アリーヴォは非常に反応良く加速できていた。距離損はあっても、道中で比較的馬場のいい外を通れたことが良かったのかもしれない。直線を向いて程なく先頭争いは横一戦。脚勢は外ほどいい。この時点で勝負あった。内の各馬を力強く抜き差り、アリーヴォが先頭に躍り出る。文句なしの重賞初制覇。横山和生騎手のガッツポーズも映える。

▲大外からアリーヴォが力強く抜け出す

 これで小倉は5戦5勝。なかでも印象的なのは昨夏の2000mでの連勝で、7月の国東特別を1分57秒5の好時計で勝ったかと思えば、次走8月の柳川特別は超のつく不良馬場のなか2分05秒1という非常に時計のかかる競馬でも勝った。極端な高速と極端な道悪、どちらか一方に強ければ、その逆はたいてい苦手なものだが、どちらでも強かった。小倉巧者とひと口にまとめてしまうのは簡単だが、その中身は実に濃い。

 2番手で食い下がるランブリングアレーに迫ったのが、外ラチ沿いから一頭違う脚勢で飛んできたカデナ。外差しの利く馬場と言えば味方のようにも聞こえるが、道悪ははっきり言ってマイナスの馬だから、どれほどプラスに働いたかは分からない。それでも少しでも馬場が回復したのは良かっただろう。僅かに及ばず3着だったが、シェイプアップして臨んだトップハンデの8歳馬が存在感を示した。まだまだやれる。

▲大勢決したかに見えた2着争い、ゴール前で古豪カデナが大外急襲

 小倉競馬場ではこの開催中、「小倉を駆けたHERO展」が開催されていた。小倉競馬場の暑さ寒さのなかで鍛えられ、国内外の大舞台へと羽ばたいた名馬たちを紹介する企画展だ。入り口で出迎える「顔」はもちろん『小倉三冠馬』メイショウカイドウ。小倉4戦4勝で駒を進めたアリーヴォの勝利を示していた……わけではないだろうが、アリーヴォもいずれ、メイショウカイドウに肩を並べる存在になるかもしれない。少なくとも、2022年が飛躍の年になることは間違いないだろう。

▲ガッツポーズで引き上げる横山和生騎手とアリーヴォ

栗東編集局 坂井直樹

坂井直樹(調教・編集担当)
昭和56年10月31日生 福岡県出身 O型
2022年の小倉滞在も終了し、栗東へ帰ってきました。7週間、特に気合を入れて臨んだのはやはり好きな障害戦。21鞍で的中11は正直満足できるものではありませんでしたが、◎をつけた馬が(12.2.1.6)、単勝回収率163%なので、ひとまず及第点でしょうか。開催は東西2場開催の今週を挟み、来週からは第3場の舞台を中京に移して再び週末出張の3週間。締めくくりはGⅠ高松宮記念。その後は春のGⅠシーズンへと突入します。まだまだ続く頑張りどころ。気を引き締めて頑張ります。