血統閑談#026 “ダービー”変則父仔制覇

 6月7日に英国エプソムダウンズ競馬場で行われた英ダービーG1は逃げたランボーンがそのまま押し切りました。人気は同厩のドラクロワに譲っていましたが、チェスターヴァーズG3からの連勝で、父系祖父ガリレオ、父オーストラリアに続いて英ダービーG1の父系3代制覇となりました。英ダービーの父仔制覇は数え切れないほどあり、父系3代制覇もこれが9例目となります。現代の血統表にも登場するところでは、ミルリーフ(1968年生)~シャーリーハイツ(1975)~スリップアンカー~(1982)、ガリレオ(1998)~ニューアプローチ(2005)~マサー(2015)、そして今回です。
 ケンタッキーダービーでの3代制覇は、レイカウント(1925年生)~カウントフリート(1940)~カウントターフ(1948)、ペンシヴ(1941)~ポンダー(1946)~ニードルズ(1953)の2例にとどまっていて、父仔2代制覇も1960年代以降だと、スワップス(1952)~シャトーゲイUSA(1960)、シアトルスルー(1974)~スウェイル(1981)、アンブライドルド(1987)~グラインドストーン(1993)などがありましたが、21世紀に入ると絶えてしまっています。
 日本ダービーでは父仔制覇がカブトヤマ(1930年生)~マツミドリ(1944)によって初めて達成されました(6月19日修正)。その後、ミナミホマレ(1939)~ゴールデンウエーブ(1951)、4年後にミナミホマレ(1939)~ダイゴホマレ(1955)、ブランクがあって、シンボリルドルフ(1981)~トウカイテイオー(1985)、またブランクがあって、タニノギムレット(1999)~ウオッカ(2004)、その後しばらくは主にディープインパクト産駒の活躍によって年中行事のようになりました。今年の日本ダービーG1では、既に父仔制覇を遂げたキズナ、ドゥラメンテ、レイデオロの産駒が日本ダービー史上初の父系3代制覇に挑みましたが、ブラックタイド~キタサンブラックと日本ダービーに手が届かなかった系統から生まれたクロワデュノールの前に屈しました。イギリスで「4代制覇」が達成されるより日本の「3代制覇」が先だとは思われるところですが、いずれにしても難しいものですね。
 ジャパンダートダービー改め東京ダービーとなって2年目を迎えたダートの“ダービー”はキズナ産駒ナチュラルライズが制して、“ダービー”変則父仔制覇を達成しました。前身のジャパンダートダービーを含めると、2020年ダノンファラオ(父American Pharoah=ケンタッキーダービーG1)、2016年キョウエイギア(父ディープスカイ)、2012年ハタノヴァンクール(父キングカメハメハ)、2002年ゴールドアリュール(父サンデーサイレンスUSA=ケンタッキーダービーG1)、2000年マイネルコンバット(父コマンダーインチーフGB=英ダービーG1)と、日米英の“ダービー馬”の産駒による変則父仔制覇が達成されています。意外に多いですね。
 そこで、自国のダービーと国境をまたいでよそのダービーを父仔制覇した例を下にまとめました(1960年以降)。
 よく、日本馬が外国に遠征して負けると「異種格闘技戦だから仕方がない」といわれます。馬場、気候、コース形態、流れなど様々な異質なことへの適応などを考えるとそれはそれで正しい面もあると思われますが、父から仔へと代を経ると壁を越えられるものでもあるようです。ケンタッキーダービー→英ダービーなど相当な異種格闘技ですし、日本ダービー→英ダービーも同様です。それでも、克服できるものなのです。
 競馬は地面の上をより速くより遠くへ走る点において、地域によって外観は随分と違っていても、その本質はひとつの競技だということなのでしょう。

英ダービーG1
年度 勝ち馬(仔) 父の勝利ダービー
2024 City of Troy Justify ケンタッキーダービー
2023 オーギュストロダンIRE ディープインパクト 日本ダービー
2012 Camelot モンジューIRE 仏ダービー
2011 Pour Moi モンジューIRE 仏ダービー
2007 Authorized モンジューIRE 仏ダービー
2005 Motivator モンジューIRE 仏ダービー
1991 ジェネラスIRE Caerleon 仏ダービー
1984 セクレトUSA Northern Dancer ケンタッキーダービー
1977 The Minstrel Northern Dancer ケンタッキーダービー
1970 Nijinsky Northern Dancer ケンタッキーダービー
ケンタッキーダービーG1
年度 勝ち馬(仔) 父の勝利ダービー
1986 ファーディナンドUSA Nijinsky 英ダービー
東京優駿G1(日本ダービー)
年度 勝ち馬(仔) 父の勝利ダービー
2005 ディープインパクト サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
2003 ネオユニヴァース サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
2000 アグネスフライト サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
1999 アドマイヤベガ サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
1998 スペシャルウィーク サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
1996 フサイチコンコルド Caerleon 仏ダービー
1995 タヤスツヨシ サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
1972 ロングエース ハードリドンGB 英ダービー
1964 シンザン ヒンドスタンGB 愛ダービー
1961 ハクショウ ヒンドスタンGB 愛ダービー
東京ダービー(ex-ジャパンダートダービー)
年度 勝ち馬(仔) 父の勝利ダービー
2025 ナチュラルライズ キズナ 日本ダービー
2020 ダノンファラオ American Pharoah ケンタッキーダービー
2016 キョウエイギア ディープスカイ 日本ダービー
2012 ハタノヴァンクール キングカメハメハ 日本ダービー
2002 ゴールドアリュール サンデーサイレンスUSA ケンタッキーダービー
2000 マイネルコンバット コマンダーインチーフGB 英ダービー

関西編集局・水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身。1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。長い上半期のG1シリーズに区切りがつきました。このごろは海外G1の馬券発売も加わって、本当に儲けるチャンスは増えるばかりです。競馬ブックではコンビニのマルチコピー機で300円で買える「G1特集版」のほか、海外競馬は1レース70円のネット新聞を用意しています。G1が終わったタイミングでいってどうするのかということですが、どうぞ秋まで覚えていてください。買ってください。