コロナ禍に思う(山田理子)

 休日正午前の買い物帰り、赤信号で停車していると交差点のはす向かいの角で、自転車に乗った白髪の老婦人がよろよろとスピードを失い、植え込みのある車道脇に転倒。一部始終を車中で見ていた私は咄嗟に「おばあさん、危ない!」と声を上げた。すると束の間、はす向かいの停止線で同じく信号待ちしていたワンボックスカーの助手席の扉が勢い良く開き、ご夫婦の奥様とおぼしき婦人が飛び出して、老婦人に倒れかかった自転車を起こし体を補助。さらに道路に隣接するスーパーマーケットの駐車場から、ガードレールを飛び越えて30~40代の男性が駆けつけた。そのとき信号が青に変わり、4本のレーンから一斉に発車し、私自身も後ろに長い列で車が控えている現実に従ってその場から離れることに。成り行きが気になったが、惨事に至らなかったことに安堵している。記憶がリフレインし、鮮明に思うのは、一刻を争い、抗う力のない老婦人を救おうとするご婦人と男性はまさしく同じ顔つきだったと。迷いなくただそれだけに集中して迅速に突き進む。刹那の一連の出来事に目頭が熱くなった。人と人は助け合う。コロナ禍にあり緊急事態宣言延長が決まったゴールデンウイーク、心が洗われるような晴天とリンクして、この先もしかと記憶にとどまることだろう。

 さて、外出自粛が続くなか、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。トレセン、競馬場は人数、時間、実質的な距離、頻度の取材規制が強まり厳戒態勢にあります。専門紙はこの状況下でも、厩舎取材班、調教班、カメラマンともトレセンの入場を許可されていますが、もちろん、マスク着用で、関係者の方とは最低限の接触に。私自身、障害ジョッキーの休憩室に足を運ぶことは休止し、電話、メール、LINEでやりとりをさせていただいています。無観客競馬に慣れ、通信でのやりとりが増え、友人との会食、離れた家族との再会もままならない現状が長期化すると人恋しくなりますが、人と接触しないことが今は思いやりであり人を助けることにつながります。自分自身、コロナ禍がなければマスクを作ることなど生涯しなかっただろうと思いますし、制度を言えば、学生の「9月入学」もこの時期に政府が本格的な検討に入ることはなかったでしょう。苦境のなかにありますが、どんな小さなことでもいいので、何かを掴んで立ち上がりましょう。

栗東編集局 山田理子

山田理子(調教・編集担当)
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は輪番で坂路小屋へ。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継いだ。