2歳夏の記録(山田理子)

 8月31日日曜のスノーエンジェル(小倉2歳S登録)の追い切り時計が凄い。4時57分、50.8―36.2―23.6―12.1。馬場のいい朝イチも朝イチ、体重の軽い見習ジョッキーが騎乗していたとはいえ、外から伸びてこの数字は出色。これが2歳夏に出たものだから驚きだ。「時計が凄い」とだけ書いたのは、実は動きはゴール前のほんの1、2秒しか見られなかったから。馬の少ない夏場の開催日といっても日曜坂路の朝一番は数が結構多く、この日は4時57分から5時00分台に62頭が時計になるところ(1Fが15秒以下)を乗られている。そのラッシュを前に、日曜が本追い切りとなる浅見厩舎が3頭で調教を消化。どの馬とどの馬が併せて着差がどうか、手応えがどうか、外の馬に見習が乗っていると慌ててチェックしている間に通り過ぎてしまったのだ。だから、びっくりしたのは会社に戻って時計を確認したあと。何だこの数字はと思った。
 実戦を想定した工夫された3頭の調教のようだが、ここでは時計の優秀さを、この馬の前にいたニシノマテンロウ(3歳、500万に在籍)と比較して話を進めたい。

 スノーエンジェル 50.8―36.2―23.6―12.1(一杯)1馬身弱遅れ(1馬身=0.2秒遅れで計算)

 ニシノマテンロウ 51.1―37.0―24.7―12.2(強目)

 スノーエンジェルは行きだし(4F)でニシノマテンロウの0.5秒後ろ。その差は3Fで1.0秒となり、2Fで更に1.3秒に開いたが、そこから一気に追い詰めてニシノの外に入り、1F地点で0.3秒、ゴールで1馬身弱まで迫った。2頭のラップは以下の通り。

 スノーエンジェル 14.6―12.6―11.5―12.1

 ニシノマテンロウ 14.1―12.3―12.5―12.2

 特筆すべきは残り400m→200mの11.5の加速力。馬場コンディションや乗り手、調教の意図などの状況が違うので単純な比較はできないが、ロードカナロアが香港で最終戦を大勝で飾ったときの、中間の最も速い調教タイム50.6―36.7―23.7―12.1 一杯(ラップは13.9―13.0―11.6―12.1)を物差しにして考えても、この時計がいかに優れたものかが分かる。
 盛況を呈した今年5月の千葉サラブレットセール2歳トレーニングセール出身。兄に重賞活躍馬がずらりといる血統で、13.3―10.8の好タイムを出し、牝馬最高価格の3564万円で落札された。デビュー戦は1番人気で4馬身差の大楽勝。大外枠からポンとスタートを決めてハナに立ち、4角から直線入り口でもまるでまだレースの序盤のように鞍上が手綱を抑えたまま。馬も耳をぴくぴくと動かして十分過ぎるほどに余力があった。仕掛けられたのは1F標手前で、そこから見る見る間に後続を突き放して独走態勢へ。鞍上が後ろを振り返り、セーフティリードを確認したあとの7完歩は馬なりで、それでレースの上がり2Fが12.0―11.5の加速ラップだった。勝ちタイムはひとつ前の九州産限定新馬戦より0秒3速いだけだが、大物ぶりが見てとれる。フォトパドックで馬体を確認するとまだまだ線が細くて幼いが、耳をピンと立て、いい表情をしている。今日の事はきっと大きな意味をもつ。どんな馬へと成長していくのか、長いおつきあいを始めたい。

(注:9月3日(水)の坂路時計をチェックしましたが、先週までと比べて朝イチはだいぶ時計が出やすい馬場のようなので、その点は考慮に入れてください)
栗東編集局 山田理子