10着までにカタカナ以外の着差がひとつだけ。0秒3差に納まる稀に見る大混戦となった今年の桜花賞はハナ差でスターズオンアースが勝ちました。そこまでの戦績が6戦1勝2着3回3着1回。特に直前の2戦は重賞でいずれもクビ差の2着でもう一歩のレースを続けていながら勝ち切れていなかったのです。相手が悪かった、展開が向かなかった、という理由もあったかもしれませんが、それ以上に大きな理由もありました。それは直線で右にモタれる癖を出していた点でした。レース映像を縦に見るパトロールフィルムで確認すると唯一の右回りだったフェアリーSでは特にそれが目立ってジョッキーが態勢を左に傾けて立て直すのが精一杯という形でした。着差だけを見るとちょっとしたキッカケがあればすぐに勝てるという見方も可能ですが、今回のレースが右回りの阪神コース。しかも相手が一気に強化される中では容易なことではなかったのです。

 担当厩舎ということもあってデビュー前から注目していましたが、稽古の動きは目立っていたし、乗り手の感触もよく期待を集めていました。新馬戦のパドックでも馬っぷりの良さが気になって紙面では2番手評価にしながら単勝馬券を買いに窓口に走ったものです。結果は0秒1差の2着。新潟外回りの新馬戦にありがちなスローの決め手勝負になって位置取りの差で負けましたが、上がり3Fは最速をマーク。今後も注目しなければと改めて思わされました。2戦目の未勝利を順当に勝ってより大きな舞台へ、期待が高まったところに立ち塞がったのが後にチューリップ賞を勝って桜花賞では1番人気に支持されたナミュールでした。赤松賞はスローの決め手勝負が向かなかったのか、逃げたパーソナルハイ(後のフローラS2着馬)も交わせずに3着。その後は重賞2着を続けて賞金を加算して本番を迎えたのでした。

 何かモヤモヤしたものを抱えながらもどこかで大きな仕事をしてくれる、という思いで取材していましたが、今回はハミを換えて最終追い切りでは初めて騎乗する川田騎手に感触を確かめてもらうという工夫がなされました。果たしてそれだけでうまくいくのか?絶対的な根拠こそなかったものの、稽古の動きがよく、体調に問題がないので私は再び、期待することにしました。いざ、スタートが切られると位置取りは思ったよりも後ろ。道中は馬群が固まっていたし、途中のラップを見てもペースはあまり速くない、これまで切れ負けしていた同馬には厳しい展開かなと思いながら直線へ。各馬、手応えを残していたこともあってインの攻防が激しくなり最内にいたピンハイが外に持ち出そうとして隣のパーソナルハイに接触し、そのアオリをスターズオンアースも受けたように見えました。これで万事休すと思った、束の間。ゴール前で測ったように先頭に立ったウォーターナビレラを外から急襲したのでした。上位2頭は写真判定。結果的にスターズオンアースが勝ちましたが、着差は僅かにハナ差。あとで画像を見るとスリットにしてひとつ半。二つの動いている物体の差なので正確ではないですが、およそ14.5センチメートルでした。1600m走ってこの差は11034分の1というものです。

 これは推論ですが、スターズオンアースがそれまで直線で右にモタれたのは一頭になって余裕があるから。それなら道中は馬群に入れてその隙を与えずにゴール前ギリギリで抜け出せば凌げるのではという川田騎手の作戦だったのではないでしょうか。もともとこの世代の中で抜けた実力があったのに引き出せなかっただけ。それを桜花賞で引き出せたのは必然なのか、あるいは偶然なのか。より不安が少ない、左回りに戻って父がダービー馬ドゥラメンテ、近親にオークス馬ソウルスターリングがいる血統背景から距離延長にも不安がないだけに今週のオークスではその答えが分かるのではないでしょうか。

美浦編集局 田村明宏

 

田村明宏 (厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型

スターズオンアースの18日の最終追い切りは初騎乗になるルメール騎手が感触を確かめました。「遅いキャンターでは口向きの難しさを感じたけど、追い切りはモタれずに走っていい動きでした。近親のスタセリタではフランスオークスを、ソウルスターリングでは日本のオークスを両方とも自分が乗って勝ったようにこの時期に良くなる血統なのでこの馬も勝つ自信はあります」と力強く語ってくれました。