道中のポジションはちょうど中団。1000m58秒4という平均ペースの逃げに持ち込んだトウケイヘイロー、直線坂下でそのトウケイを捉えに出たジェンティルドンナ。この人気2頭の動きを窺いながら徐々に進出、目の前を行くダノンバラードの外に持ち出したその刹那、ジャスタウェイの眼前に進むべき〝道〟は開けました。それにしても、道が開けてからのあの強さはいったい何だったんでしょうか……。
 海外遠征組など牡馬の超A級こそ不在でしたが、現役最強牝馬ジェンティルドンナがぐうの音も出なかった4馬身差の圧勝劇。記録を振り返ってみると、秋の天皇賞が2000mになった1984年(昭和59年)以降では、1987年にニッポーテイオーが記録した5馬身差というのが、このレースにおける最大着差。今回の4馬身差はこれに次ぐ大勝記録であり、1991年に1着降着となったメジロマックイーンの幻の6馬身差を含めても、この舞台で〝2位入線馬を突き放した記録〟としては堂々の3番目ということになります。しかも、突き放した後続がGⅠ4勝のジェンティルドンナに、GⅠ2勝のエイシンフラッシュ。ちなみに、ニッポーテイオーが勝った1987年は2着のレジェンドテイオー以下、5着までがノンタイトル馬。また、メジロマックイーンが突き放したプレクラスニーもそれまでノンタイトルだったことを思えば、この4馬身差には大きな大きな価値があるといっていいでしょう。蛇足になりますが、このところ馬券で燻りが続いていた筆者も久しぶりに鬱憤を晴らすことができ、個人的にも本当に胸がすく思いの4馬身差でありました。

<秋の天皇賞・着差の記録>
  優勝馬      年 着差
(1)ニッポーテイオー  87 5
(2)ジャスタウェイ   13 4
(3)サクラユタカオー  86 21/2
〃テイエムオペラオー 00 〃
〃メイショウサムソン 07 〃
(6)ブエナビスタ    10 2
(7)カンパニー     09 13/4
※2000mになった1984年以降

 ところで、記録に迫るような大勝を演じたジャスタウェイですが、その戦歴を振り返ると、これまた天皇賞優勝馬としては記録的なもの。ただ、こちらは「逆の意味で」の但し書きが付きますが……。引き続き、2000mになった1984年以降という条件で、その〝記録的な部分〟を見てみたいと思います。

●2勝馬の勝利
 まず、ジャスタウェイのここまでの通算成績は15戦2勝。2勝馬の優勝というのは史上初めてのことでした。振り返ると2勝馬だけでなく、3勝馬の優勝というのも過去に例がなく、歴代優勝馬の最少勝利記録はスーパークリーク、バブルガムフェロー、2002年のシンボリクリスエス、ゼンノロブロイ、エイシンフラッシュの4勝。それら5頭のうち2頭は優勝当時、現在の年齢表記でまだ3歳でした。したがって、古馬の2勝馬の優勝というのは極めて特異なケースといえるのですが、それもそのはず。マル地を除くと2勝馬は出走数自体が極端に少なく、1984年以降の30年間で出走数は僅かに8頭、つまり、4年に1回強のペースでしかその姿を現さない極めて少数派による天皇賞制覇だった訳です。

<秋の天皇賞・2勝馬の全成績>

 馬 名     年 着順
リアルバースデー 90 9着
トーホウシデン  02 5着
ダイワメジャー  04 17着
キングストレイル 05 16着
コスモファントム 10 15着
エイシンアポロン 〃 17着
ジャスタウェイ  12 6着
   〃     13 1着
※2000mになった1984年以降

●重賞1勝馬による優勝
 2勝馬なので当然といえば当然ですが、ジャスタウェイの重賞勝ちは3歳時のG3・アーリントンC(1600m)ひとつだけ。歴代優勝馬の平均重賞勝利数が3.6勝ですから、この大一番で盾を手にするには、かなり物足りない成績だったことが否めません。ただし、この記録に関しては上には上が(この場合、下には下?)。1985年優勝のギャロップダイナはダート主体に使われてきたこともあり、天皇賞挑戦までに通算7勝を挙げながら重賞勝ちはゼロ(ダートのオープン特別2勝があっただけ)。自身、初の重賞制覇となったのがこの大一番で、しかも、皇帝シンボリルドルフ相手の大金星でした。ちなみに、この時のギャロップダイナは17頭立ての13番人気。あの〝100年目のシンデレラ〟ヘヴンリーロマンスの14番人気には一歩譲るものの、単勝配当は8820円。これは3200m当時を含めても秋の天皇賞における史上最高の単勝配当であり、現在も破られていない記録です。

 さて、話をジャスタウェイに戻すと、それまでG2以上に勝ち鞍がなかった馬の勝利というのは、前出のギャロップダイナ、1992年のレッツゴーターキン、1998年のオフサイドトラップに続いて史上4頭目。また、芝1800m以上の重賞に勝ち鞍がなかった馬の優勝というのも、ギャロップダイナ、1993年のヤマニンゼファー、2001年のアグネスデジタルに続いてやはり4頭目でした。
 実績を振り返れば振り返るほど、今年の優勝馬ジャスタウェイに対してはマイノリティーのイメージが増すばかり。しかも、レッツーゴーターキンとオフサイドトラップには複数のG3勝ちがあったこと、ヤマニンゼファーとアグネスデジタルはマイルでは押しも押されもせぬGⅠウィナーであったことを思えば、単純に、これらの馬と同列に扱う訳にはいきません。
 歴代の優勝馬と比べて見劣りを否めないジャスタウェイのこの戦績。ただ、それだからこそあの瞬間、〝道が開けた〟との思いを強く抱かせてくれたことも事実です。深く記憶に刻まれる名シーンというのは、必ずしもひと握りのエリートによって作られるものではないというところでしょうか。
美浦編集局 宇土秀顕