2012年6月の競馬法改正によって払戻率を70~80%の間で弾力的に設定できるようになった。JRAでは6月7日以降、新しい払戻率が適用される。券種による新しい払い戻し率は以下の通り。

 単勝  80.0%
 複勝  80.0%
 枠連  77.5%
 馬連  77.5%
 ワイド 77.5%
 馬単  75.0%
 3連複 75.0%
 3連単 72.5%
 WIN5  70.0%

 現在は全体として75%になるように設定されていて、ざっくり結論を言うと、単勝がおおむね微増、複勝が微減、枠連、馬連、ワイドが増、馬単、3連複は微増、3連単は微減、WIN5は減といったところ。複勝はもともと配当が大きくないので、微減の微が微で済まないという面もある。

 まず、現行の配当金の計算方法をおさらいしておこう。

〈第1号算式〉
{勝馬に投票された金額+(負馬に投票された金額÷勝馬の頭数)}×(1-18%)=T
〈第2号算式〉
(T-勝馬に投票された金額)×10%
〈第3号算式〉主に単勝・複勝のみ
(すべての馬に投票された金額÷勝馬の頭数)×5%
そこから、
(第1号算式の答T-第2号算式の答+第3号算式の答)÷勝ち馬に投票された枚数=1枚(10円券)当たり払戻金
となる。

 上の式は検索サイトで今なら「具体的な払戻計算式」と検索すればJRAのサイトの当該ページが出てくるので、詳しくはそちらを参照していただきたいが、第1号計算式の18%は第1控除率、第2号計算式の10%は第2控除率という。第2控除率の存在が、高額配当を削り、低額配当を底上げする働きをしている。第3号計算式は現在の単複に上乗せされている「特別給付金」やキャンペーン的に馬連などに上乗せされる「1号給付金」5%のことだと考えていい。

 このような複雑といえば複雑、よくいえば綿密に考えられた計算式が、新制度ではもっとシンプルなものになる。キャリーオーバーのあるWIN5を別にすると、以下の通り。

{勝馬に投票された金額+(負馬に投票された金額÷勝馬の頭数)}×払い戻し率÷勝馬に投票された枚数=1枚(10円券)当たり払戻金払戻金
となる。
 要するに返還分を除いた「全票数」×「払い戻し率」÷「的中票数」ですわ。

 今回の変更によってどう変わるかを今年の重賞でシミュレーションしてみよう。極端な例を探してみた。

・フェブラリーS(大荒れの例)現行、新払い戻し率、差で示す。
単勝   ¥27,210→¥27,620(¥410)
複勝1  ¥3,310→¥3,170(¥-140)
複勝2  ¥140→¥140(¥0)
複勝3  ¥140→¥130(¥-10)
枠連   ¥10,560→¥11,080(¥520)
馬連   ¥84,380→¥88,600(¥4,220)
ワイド1 ¥15,760→¥16,540(¥780)
ワイド2 ¥14,890→¥15,620(¥730)
ワイド3 ¥240→¥250(¥10)
馬単   ¥256,050→¥260,200(¥4,150)
3連複  ¥55,360→¥56,250(¥890)
3連単  ¥949,120→¥932,390(¥-16,730)

・シンザン記念(堅い決着の例)
単勝   ¥160→¥150(¥-10)
複勝1  ¥110→¥110(¥0)※プラス10
複勝2  ¥130→¥120(¥-10)
複勝3  ¥210→¥190(¥-20)
枠連   ¥320→¥330(¥10)
馬連   ¥320→¥330(¥10)
ワイド1 ¥170→¥170(¥0)
ワイド2 ¥360→¥360(¥0)
ワイド3 ¥500→¥510(¥10)
馬単   ¥430→¥430(¥0)
3連複  ¥970→¥970(¥0)
3連単  ¥2,220→¥2,180(¥-40)

 第2号計算式がないのと端数切り捨ての影響で安い単複は今より安くなるが、単勝の場合、6倍前後を超える穴狙いなら旨みは増す。一方、今回の発表で触れられていない特別給付金などの手当てがなければ複勝はプラス10(シンザン記念のミッキーアイルもそれに該当)以外、3頭全部が人気薄という大波乱のケースでもないと払い戻しはおおむね下がるだけとなる。

 逆に枠連、馬連、ワイド、馬単、3連複は厚みを増しており、固くても損はしないし、荒れればそれだけ利幅が増す。そこそこ当てやすく、それなりの配当を見込める部分を手厚くすることで、幅広いファンに喜んでもらおうという狙いだろう。その分を3連単を削って埋めたことがどう出るか。当てにくいとはいっても売上シェアは3連単がダントツだ。一攫千金、一発逆転の魅力を薄めることで、JRAの思惑通り馬連など中難度の券種への回帰があるのだろうか。

栗東編集局 水野隆弘