まだまだ日中は暑い日もありますが、朝晩はすっかり秋らしくなってきました。活動的な季節が過ぎて、いよいよ“物思いにふける秋”です。
 ということで、今回はただぼんやりと“物思い”を…。

 エアコンなしで過ごした今夏の話は前回書きましたが、そんな日々の中で毎週金曜夜の楽しみだったのが、NHK・Eテレで放送された『ニッポン戦後サブカルチャー史』でした。いや、でした、と過去形にしてはいけないですね。10回シリーズで、あと2回放送がありますから。

 タイトルから類推するに、気楽に観られるのかな?と思いつつ、一方で、Eテレの番組ですからね。しかも講師が伝説の“ラジカル・ガジベリビンバ・システム”の宮沢章夫氏とあっては、一筋縄ではいかないのかも、という思いもありましたが、放送が始まってみると、いい意味で案の定でした。

 1950年代から10年毎に分けて、日本のサブカルチャーの変遷を辿って考察しよう、という内容ですが、ナンセンス漫画の金字塔『天才バカボン』の或るシーンが太田省吾の『水の駅』の手法につながっている、だの、日本のフォークソングの祖が三橋美智也である、といった大胆な仮説の数々は、観ていて全く飽きることはありませんでした。

 無論、宮沢氏が劇作家であり、こちらの興味対象、好みにピッタリと嵌まっていた、というのはあるでしょう。ミュージックシーンの扱いが比較的薄い印象もあって、そちらに思い入れの強い皆さんには、若干物足りない部分があったかもしれません。
 まあそれはそれとして、講師・宮沢氏と3人の受講生との世代間ギャップが毎度浮き彫りになるのも、手法として実に興味深いものでした。受講生達が、驚きの表情でもって往時のサブカルチャーを理解しようとし、何かを掴もうとするわけですから。

 そして、この“手法”で気づかされたことがありました。

 最近、録画して観ている番組は圧倒的にBSが多いのですが、その殆どが、自分世代…つまり50歳代をターゲットにした作品なのではないのか、ということです。

 例を挙げると、年明けに当コラムで書いた『井上陽水ドキュメント“氷の世界40年”』もそうですし、TBSの方でやっている『SONG TO SOUL』という往年のヒット曲を扱った番組などもそう。
 音楽以外の番組に目を向けても、長寿番組ではありますが、『酒場放浪記』なども20代前半をターゲットにはしていないでしょう。フジの『みんなの鉄道』なども、広義では若い人を対象にはしていないはずです。

 制作に携わるスタッフの年齢が、きっとそういう年代なのだろうとは思います。が、それにしても、それぞれの番組作りに関して共通した思想性が感じられるのです。
 基本的に彼らには、若い世代を開拓しよう、という気持ちが薄いのではないか。いや、それが乱暴な言い方だとすれば、二の次にしている、と言い直しても構いません。
 つまり若い人達に喜んでもらおう、というよりも、同年代のいいトシした連中…いやいや、“いい大人達”に満足してもらえる番組を作ろうとしているのではないか、と。

 そういう番組に新しいファンを開拓できるのか、ですって?
 ですから、彼らは、そういうことは別の話、と思ってたりしないでしょうか。勿論これは想像、仮説、に過ぎませんが。

 上記の『酒場放浪記』。いい大人がフラッと居酒屋に入って、お酒を飲んで酔っ払ってうんちくを語る。それだけの番組でも、その行動パターンの魅力をキッチリと伝えてくれると、酒場の楽しみ方を知っている我々世代は喜んで観ますし、それを観た若い人達も何かを感じて酒場に興味を持つ、ということは確実にあるのではないでしょうか。

 逆説的ですが、新たにファンを取り込もうとする時、ターゲットを若い世代に置くのではなく、その世界の大ベテラン達に置くべきではないのか。今回挙げた例はすべてテレビ番組ですが、他の媒体でもポイントはそう変わらないでしょうし、少なくとも、可能性を探ってみる価値はあるはず。

 我が業界を省みて、そんなことを考えてみようかな、なんて思っているところ。次週にスプリンターズS、凱旋門賞という国内外のビッグレースを控えた秋の夜長に、ピッタリのテーマなのではないでしょうか。
美浦編集局 和田章郎