「下はすごく人が多いんですけど、何かあるんですかね~」といつも追い切り時計を聞きに来る助手さんが不思議そうに聞いてきた。そういえば報道関係者用の駐車場も妙に混んでいたな……。
 今週行われるヴィクトリアマイルの主役、ヌーヴォレコルトの追い切りがあることは大きな要素かもしれない。でも、きっとそれだけじゃない。
 来週のオークス、そしてダービーでも主役を張りそうな馬が今年は関東にいる。ついでというわけではないけれど、他にも取材すべき素材があるのだから、あちらこちらの取材陣が増えるのは当然のことかもしれない。
 この時期になるといつも思い出すのは2006年、美浦からのダービー出走馬がジャリスコライト1頭だけだった年のこと。
 ダービーウィークにもかかわらず、カメラの数も取材陣の数もいつもとほとんど一緒。調教見学のお客さんこそいたものの、GI出走ゼッケンをつけている馬は1頭だけ。とても1年で最も盛り上がる特別な1週間ではなかった。
 あの寂しさから9年。毎週、毎週、GIレースで話題になる馬がいて、勝てなくとも勝負にはしっかりと参加し続けている。その結果も踏まえてなのだろうけど、ダービーの3週前だというのに溢れんばかりの取材陣である。
 美浦の馬が活躍することで自分になにか特別いいことがある訳ではない。
 それでも、祭りに参加できるようになったうれしさというのか、よその出来事ではなくて、地元の行事だぞといった感じになれるのがいい。
 胸を張ってダービーのことを語れるような気分になれるのだから、有力馬が美浦にいるのは心底うれしい。
 考えてみれば、昨年もおととしも皐月賞は関東馬が制している。今年で3連覇である。
 関東馬が強くなってきた原因のひとつに、いいか悪いかは別として、2012年の秋から始まった未勝利戦の関東馬、関西馬の出走制限がきっかけになったのは確かだろう。
 この制限そのものにそれほど効果があるとは思えなかったが、いきなり制限が始まった世代からロゴタイプやコディーノが出てクラシックを盛り上げることに。
 そして昨年はイスラボニータ、ヌーヴォレコルトがクラシックを制して、今年はドゥラメンテが圧巻の内容で皐月賞を制してしまった。
 始まる前はまったく想像できなかったけど、使うレースが限られる以上、何頭もの素質馬を抱えている馬主さんが関東と関西に分けて入厩させようと思うのは当然ことだったのかもしれない。
 それに我々、見る側にしても、どちらか片方に偏っているよりは、バランスよく、関東、関西に有力馬がいた方が競争意識が働くような気がして、ますます興味が沸いてくる。
 明日14日はおそらくドゥラメンテ、サトノクラウンの追い切りがある。
 勿論、他の馬たちの気配を見ることも大事だけれど、ことダービーだけは別格。双眼鏡を握る手にも自然と力が入り、この2頭のデキの良し悪しを自分の感覚で判断できるのは他の何よりもやりがいのある仕事だ。
 予想をするにしても、目の前で見ているのと見ていないのでは想像力の働きかたが違ってくる。
 当たるか当たらないかは別として、おととしよりは昨年、そして昨年よりは今年の方が仕事も馬券も気持ちの入り方が違う。
 ちょっと気合が入り過ぎてきましたが……。
 あと2週、体調も気持ちもしっかり整えて。スッキリとした頭の状態で大一番に臨みます。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。