席に座ってため息をひとつ。

 新幹線の自由席は3割ぐらいしか人がいない。1本あとの指定席を取っていたのだけれど、夕食の目当てにしていた店は閉まっていて、他を探す元気もなかった。

 散々な結果だった新潟競馬場から逃げたいような気持ちもあったのかもしれない。とにかく、落ち着いてぐっすり眠りたい。

 前の週は良かった。特に日曜の後半はフローラSを含めて、思い通りに決まることが多かった。だからと言って、翌週までその流れが続くはずもない。

 分かっているはずなのに、またやってしまった。この開催初めての新潟出張。馬場やジョッキーの雰囲気をちゃんと掴めていないのに、むやみに手数だけたくさん出して、ほとんど当たらなかった。クリーンヒットに至ってはゼロ。

 もう何年トラックマンをやっているのだろうか。

 同じことは過去に何回もあった。それなのに……。

 新聞を見返しながら反省している内に睡魔が襲ってきて、燕三条に着く前に眠ってしまっていた。

 気が付くと車窓からは何にも見えない。長いトンネルの中。

 次に見えたのは上毛高原駅のホーム。もう谷川岳は過ぎて関東圏に帰ってきたようだ。

 本来なら東京まで行って戻った方がいいのだけれど、人が少ない方がいい気分。大宮で降りて上り電車で帰ろう。

 大宮で降りるお客さんも以前のゴールデンウィークはもちろん、かつての日曜日に比べてもうんと少ない。この人の少なさがせめてもの救い。気持ちはだいぶ落ち着いてきた。

 しかし、在来線のホームについて驚いた。

 人が一杯いる。時間は21時少し前。車内も座れずに立っている人がいる。

 荷物がそれなりにある。立つのはちょっと辛い。最後尾近くの車両まで行って、何とか座ることができた。それでも人は少なくない。

 さらに驚くことに電車が動き始めて、駅が進んでも降りる人より乗ってくる人の方が多い。

 何駅か進んだあたりでようやく気がついた。緊急事態宣言が出ているのは東京だけだった。大宮のある埼玉県はまん延防止措置止まり。

 ひょっとしたら東京まで行ってから戻った方が良かったのか?

 こんなところでもまったく分析できていなかったのかもしれない。何をやってもダメな日なのか。

 よくよく周りを見ると自分より年上と思える人はほぼいない。

 9割近くは20代か10代のように見える。それに気づいた瞬間、少し怖くなった。

 我々の仕事の場合、満員電車に乗り込むことはほとんどない。

 今回は満員ではないけれど、座るところがないような状況で周りがほぼ20代以下。

 コロナ禍になって初めて怖いと思った。

 この状況は彼ら彼女らがルールに明らかに反している訳ではなく、自然と発生したにすぎない。このルートを選んだ自分の読みが悪かった。

 大型連休中で天気はすこぶる良く、ほど良い暖かさ。危険なことを意識しながらも、若者が外を出歩くのは致し方ないような気がする。

 1年以上も続くコロナ禍での生活。その中でほんの少しの息抜き。もし、自分が20代で同じ状況だったら、久しぶりに友人と会食をするくらいいいんじゃないかと思いそうだ。

 競馬場で欲望に弱いことを痛感したばかりだからか。若い人たちを咎めるような感情は全くわいてこなかった。

 しかし、本当に厄介な状況。1年以上経ってもあまり状況は変わっていないのだからもどかしい。

 地球規模の大きなスパンで見たらほんの一瞬の出来事なんだろうが、そんな大きなスパンでばかり物事は考えられない。そろそろ違う手はないのだろうか?

 いっそのこと、世代別に行動できる時間帯を分けるという手はないだろうか?

 ありえないか。ついつい荒唐無稽なことまで考えてしまうくらい、自分自身もストレスを感じ始めているのかもしれない。

 自宅周辺をムキになって歩き回り、少しずつストレスらしきものを解消しているが、それも天気次第ではできなくなる。

 唯一の喜びだったサウナも都内では禁止になった。

 少しはみ出した行動をする若者を見ていても、それはそれで仕方ないんじゃないかと思ってしまう。

 医療従事者の方々の疲弊は到底、想像できない。自分はうんと恵まれているなとも思う。

 それでも感染者が増えていることの責任が我々にあるような雰囲気は心底、恐ろしいと思う。

 皆で監視しあっているような、本当にひどい世の中になってきた。

 そろそろ持続可能で、無茶をする人がそれほど増えないようないい提案を出してもらえないだろうか。

 ひょっとするとこのストレスが、先週の冴えのなさにつながったりしていないだろうか。

 天皇賞の直線は新潟のターフビジョンを呆然と眺めるだけだった。

 何もかも良くない状況だけれど、きっとこの悪い時があったから今がある。といえるような日が自分自身だけじゃなく、世の中にも来る日を夢見ている。

 夏の新潟開催ではうまいものを食べて、遠慮することなく酒を飲んで、帰りの電車でもストレスなく帰宅できるようになっていてほしい。

 緊急事態はどうやら延長されそうだ。

 それでもきっと、今年のダービーはお客さんの前で行われるはずだ。

 無理やりにでも、そう思い込みながら関東の有力馬を見極めていきます。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。