2月28日、JRAで歴代4位の通算2541勝という記録を残した蛯名騎手が引退した。最後の勝利になったスマートアルタイルの追い込みを見ていると相変わらず判断が適確だし、フォームも力強いので引退するのはもったいないという感じもあるが、今後は調教師として新たな道を歩み出そうというのだから名残り惜しむのではなく、違う形での活躍に期待したい。ただ、それにしても昨年からの新型コロナの影響で年明けから再び、無観客競馬が再開され、当日の引退式もネットでのライブ配信のみになったのは残念。大レースで無類の勝負強さを見せてファンも多かった騎手なので当日、声援を送りたかったひとも多かったはずだ。

 今でこそ、現役騎手で蛯名姓は一人しかいなくて弊社での表記も蛯名となっているが、デビュー当初は現調教師の蛯名利弘さんと元調教師の蛯名信広さんが現役の騎手で、区別するために表記は蛯名正、愛着を込めてエビショーと呼ばれていたのだ。我々記者仲間でもよく話題に上っていた「エビショーオヤジ」もそのひとりだったに違いない。スタンドとの距離が近い中山競馬場で蛯名騎手が直線で勝ち負けに加わりそうになると「エビショー、エビショー」と絶叫しながら応援していたファンの方だ。昨年からの無観客競馬で忘れがちだった存在だが、なんと蛯名騎手本人のツイートによると直接、手紙が届いたという。馬券を買って熱くなるのは誰しもあることで記者席でも思わず声が出てしまうことがある。

 緊急事態宣言が解除された関西地区では3月13日以降、限定での有観客競馬が再開されるようだが、関東地区でも再開が待ち遠しい。その蛯名騎手の引退と入れ替わる形で今週からは8人の新人騎手がデビュー。活躍中の藤田菜七子騎手の後を追って二人の女性騎手が話題になっているが、私が注目しているのは永野猛蔵騎手だ。関東記者には馴染み深い新潟県出身で肉親に競馬関係者はいなかったが、おじいさんが競馬ファンだったという。それがきっかけで乗馬クラブに入って騎手の道を志したというが、初見で気になったのは猛蔵という名前だ。最近では珍しい純日本風だが、騎手という勝負の世界には向いていると思う。ちなみに彼が誕生した2002年の男の子の名前ランキングによると翔太、翔、大輝、陸、蓮が上位5位を占めている。今年のデビュー組でいうと松本大輝君がこれに該当する。懇意にしている伊藤圭三厩舎所属ということで取材させて貰ったが、その中でやや失礼かもしれないが、「名前でイジられたりしなかった?」と聞くと「逆に珍しい名前ですぐに覚えて貰えて良かったです」と屈託なく笑顔で答えてくれた。残念ながらデビューの今週は無観客だけにチャンスはないが、通常開催が再開されたその日には「タケゾー」と大声で応援できることを心待ちにしている。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 О型
今週の注目馬はやはり永野騎手の騎乗馬。週報でも取り上げたリュヌダムールもそうだが、おそらく初騎乗になる土曜3Rのタマモヒップホップも有力だ。初戦は勝ち馬が強かっただけ。思い切りのいい騎乗を期待する。