検査体制がしっかりしてきたから、という見方はできるのだろうと思われますが、一日の感染者(この言い方が正しいのかどうか)の数字が夏になっても減少傾向になく、いやむしろ増加傾向なのでしょうか?新型コロナウイルス、本当に厄介です。

 競馬の方も、3回新潟開催から観客を入れて行われる、と一旦は7月30日に発表されましたが、全国規模での感染拡大傾向を踏まえて、翌週の8月8日、〝入場再開〟は取りやめに。影響を受け続けています。
 それにしても、新潟競馬場は市街地から遠く、電車でのアクセスは難しいですし、周囲がびっしりと住宅に囲まれているわけでもありません。そこへもってきて再開のための対策として、比較的感染者数が抑え込めている新潟県内在住者限定で、インターネットによる指定席を約600席の発売、という条件がつけられていました。
 この条件下での新潟競馬で入場再開が見送られたとなると、一般的にウイルスの働きが活発になるとされる秋以降がどうなるのか、まったく見当がつきません。新しい薬とか、ワクチンとかの開発待ち、ということになるのでしょうか?いやもう本当に新型コロナウイルス、厄介極まりない。

 そんなようなことも踏まえて、今回は競馬絡みに焦点を絞って、この半年間のコロナ禍で感じたこと-主に驚いたりショッキングだったことになりますが-を備忘録的に書き進めながら、これからの競馬、についても想像を巡らせてみたいと思います。

◆その3
 〝コロナ後の競馬のカタチ〟

 まず最初の衝撃は何と言っても2月29日からの無観客競馬。
 新型コロナウイルスに関する報道が増え始めたのは1月中旬過ぎでしたか。プロ野球のキャンプは勿論、開幕時期がどうなるのか、とか、女子プロゴルフのツアー初戦を無観客でと発表されたかと思ったら結局中止に、だとか。高校野球のセンバツ大会は?東京2020は?とかとか。
 そんなような報道がある中で、2月23日のフェブラリーSが終わった次の週の木曜日。27日に「29日以降、当面の間」という括りで〝無観客競馬〟が発表になりました。他のプロスポーツの状況を鑑みて覚悟はしていましたが、目前の高松宮記念、大阪杯が無観客で行われたのは仕方がないとして、春のGⅠシリーズがすべて無観客で行われることになろうとは、見通しの甘いことにその時は想像できていませんでした。8月を迎えてなお、なんて言うに及びません。

 この〝無観客競馬〟ですが、別の意味で興味はありました。「演劇的要素がある」と思う競馬で〝無観客〟が成立するのか。その一方でスポーツである以上〝無観客〟は成立するはず。という思いが交錯していたから。実際にやってみて、果たしてどうか、と。
 そしてもうひとつ。お客さんがいない競馬で、馬券がどの程度、売れるのか。

 通常、競馬場だけでなく、無観客と同時に閉鎖されることになったウインズを合わせても、売上自体は全体の3割程度。その分だけが下がると想定すれば、2月29日の売上前年比、中山86.1%、阪神90.5%、中京85.0%は大健闘ですが、想定内でもありました。
 ただ、翌30日に行われた高松宮記念は100.4%を記録しましたが、その後のGⅠに関しては前年比100%割れが続き、上半期終了時点で前年を上回ったのは11レース中ヴィクトリアマイル、宝塚記念の計3レースにとどまりました。
 この傾向はどうなのか?と思っていたら、上半期の全体の売上は1兆4千7百億円超で、対前年比は101.5%。これは想定外でした。

 無観客で競馬を開催して売上増。
 これは何を意味するんでしょうか?
 緊急事態宣言の発出によって他の娯楽を取り上げられた皆さんが、競馬に押し寄せて楽しんでいただいたから?なるほどそうかもしれません。

 では、同じようなことで、筆者個人としてショックだったことはどうでしょうか。
 無観客競馬がスタートしてほぼ1カ月が過ぎた3月29日。中山競馬の3R以降が、雪のため順延となり、翌々日の31日に続行競馬が行われました。出馬投票がやり直され、枠順が変更になったのですが、印刷や輸送ルートの確保等、さまざまな難問に直面した私ども専門紙は変更版を発行しませんでした。その29日と、火曜日だった31日の合計の売上が前年比104.2%。
 専門紙がなかった日のこの数字は何を意味してます?
 個人的には、このコロナ禍で一番ショックだった…かも。

 3つ目はショック云々ではありませんが、無観客がレースそのものにどう影響を与えたか、の検証があります。
 この春は3歳クラシック戦線で牡牝ともに無敗の2冠馬が誕生。古馬戦線でも名勝負と呼べるような熱戦が続きました。その多くは比較的人気馬が人気通りに、というよりも、実力馬が持てる実力を存分に発揮した、という印象が強かったのではないでしょうか。
 これについては様々な意見が出ていますが、概ね「普段イレ込みやすくて力を出せないでいるタイプの馬が、観客がいない環境で、折り合いやゲートなどの課題をクリアできているのではないか」というもの。そういう側面はありそうです。否定しません。

 しかし、ここでは敢えて別の視点を仮説的に取り上げておきたいのです。
 お客さんがいないことで、普段当たり前に受けるはずの緊張感がない、という意味では、馬よりも鞍上にこそ影響が大きいのではないか、という側面です。

 無観客になった際に、その印象を問われて、「声援がないのは寂しい」、「お客さんあっての競馬だと、改めて思わされた」といった意見がある一方、パドックでのヤジがないことを歓迎した騎手もいたとかいないとか。直接聞いたわけではなく、真偽のほどは分かりませんが、個人差があるにせよ、メンタル面から見て、お客さんの視線が気になるのは馬だけではない、ことだけは言えるのではないでしょうか。ほとんどのGⅠが、とてもクリーンな内容で決着したこととも無関係ではないだろう、と感じています。

 さて、ここまで書いたことから生じる不安として、もしかしたら「無観客も悪くないのでは」と考える人が増えて、その流れになっていきはしないか、みたいなことがあります。中止、順延の際の代替のケースとか、これはまったく別次元の話になりかねませんが、ナイター競馬の際とかに用いる、とかね。勿論、ウインズ等は通常営業で。要するに〝無観客競馬〟が用語として定着する日が来る……いや、もう既にそうなりつつありますか。
 「それだと本当に〝ただのギャンブル〟に堕してしまうんじゃないか」
 との指摘も耳にしました。
 全部が全部そうなったら本当にそうなりかねませんが、さすがにそこまで競馬のカタチが変わるような事態にはならないと信じています。何にしても、内部からでも外部からでも、可能な限り客観的な視点を持ち続けることは重要でしょう。

 で、外部からの客観的な視点、ということで、もうひとつショッキングと言うのか、残念だった話題-

 無観客での開催を発表した当初から、ネット上では「他のプロスポーツが自粛して負担を強いられているのに、なぜ競馬だけが開催できるのか」といったような意見がありました。競馬の外部の人々から見れば、そう思われるのは無理はないかもしれません。第1、第2国庫納付金のこととか、競馬ファンが当たり前に知っているようなことをご存じないかもしれませんから。でも、その論調でも「結局は人命より経済?」みたいな声も散見しました。
 だからこそ、きちんとした説明をいち早く行う必要があったわけで、その役に最もふさわしいのは誰もが認める武豊騎手しかいないでしょう。実際に緊急事態宣言が発出された翌日の4月8日に、騎手会長として会見に臨み、開催が継続されることについての関係者の思いを代弁してくれていました。

 その会見が行われたのが、期待していたよりも遅かったことはともかくとして、それよりも何よりも残念だったのは、その翌々週、自身のオフィシャルサイトで、JRAが感染拡大防止の取り組みとして設けた特別ルールのひとつ、「騎手の土日の競馬場の移動制限」について書かれた意見内容。
 特別ルールでは、例えばダービーに向かう期待馬が土曜日に京都に出走し、そちらに乗ると翌日の東京のGⅠに騎乗できないことになります。逆に日曜日のGⅠに乗ると、前日のダービーに向かう期待馬には乗れない。
 このルールについて、「決定の趣旨は理解するところですが、GⅠについては幅をもたせてほしいというのが本音です」とありました。

 書かれたのは緊急事態宣言の真っただ中の4月23日。
 物心ついた頃から甲子園を目指した球児達や、何年も費やして東京2020に向けて頑張っていたアスリート達が、理不尽な形で夢を奪われ、しかもそれについて不平不満を言いにくい状況下にあって、競馬が開催されていることの幸せを享受し、更に自分でどちらかを選べるという恵まれた環境も与えられていながら、「これだけは何とか」の論調は、彼らしくはなかった、かと。「彼が言わんとするところは理解できるが」とか、「51歳になっても尽きない勝利への執着心は凄い」みたいな意見は、競馬から離れた世界では通用しないでしょう。
 筆者は拙著の中で「騎手は武豊以前と以後に分けられると言ってもいい」みたいなことを書きました。そのくらい特別な人物であると定義しています。だからこその、読んでみてのびっくりと、ちょっと残念に感じた案件でした。
 8月9日にJRA前人未到の4200勝を達成し、先週16日にも1勝を加えて現在リーディング5位。その健在ぶりも含めて、今更言うまでもなく、レジェンドであることには変わりがありません。彼についてはまったく別の件で書きたいこともあり、またの機会に取り上げることができればと思います。

 ということで、3回にわたって「コロナ禍中に感じたこと」をテーマに書いてきましたが、全然、書き足りていない感じ。ま、コロナ絡みの話題は、これからもいろいろ出てくるかもしれませんし、こちらは確実にまたの機会があるでしょう。
 ひとまず締めとなる今回の最後に、ウマと人のメンタル面についての、これは妄想の類になりかねませんが、疑問に感じること、そして希望を少しだけ。

 お客さんがいることでテンションが上がる。それが極度のイレ込みにつながるようだとマイナスだとは思いますが、ドーパミンだか何だか分かりませんけど、とにかくプラスに作用するホルモンみたいな成分が適度に分泌された場合、それまでに見せたことがなかったパフォーマンスにつながったりしないのでしょうか。ウマも人も、です。
 どちらかと言えば、そういうような競馬を見たい。
 やっぱり、競馬場には観客がいてくれないと……。
 (長々と書いて結論はそれかよ、と叱られそうですが)

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、がモットー。猛暑にもめげずに、と思いつつも、熱中症とコロナ対策は油断ならず、さて夏の終わりをどう過ごそうかと思案中。