週刊競馬ブック誌上に掲載してます〝今週の狙い馬〟のコーナー。特に〝告知NG〟とかの制約があるわけではないので、こちらでひと足お先に報告させていただきますが、来々週3月26日発売号でもって、〝卒業〟する運びになりました。

平成元年から誌面に登場させて頂きましたので、かれこれ30年ですか。いろいろと思うところも少なくなく、そんなわけで今年に入ってから〝終活〟よろしく、先輩諸兄との交流を軸に過去の思い出話や、思いついたこと、身上などを振り返ってきましたが、当然、推奨馬込みの168字では書き切れるものではありません。全体にはしょり気味になりがちで、どうしても長くなってしまうことは別のところで記すつもりでスルーしました。

〝別のところ〟というのはすなわち当コラム。しばらくお付き合いください。

長く関東の本紙予想を担当していた松本憲二TM。
今年から本紙予想を全面的に後進に譲りはしたものの、いまだ現役で活躍中の大先輩ですが、現在、週刊誌上で吉岡TMが担当している〝観戦記〟を、松本憲先輩が2010年3月まで担当していました。
その手伝い-具体的には代筆-を1996年の秋から私が担当しました(すべてではありません)。

代筆と言っても、正確には〝口述筆記〟で、彼が解説を担当している(現在も継続中)ラジオNIKKEIの番組の合間に、ラジオNIKKEIさんの部屋にお邪魔してメモを取り、私の方で構成、執筆を担当する、というものでした。

このケース。中途半端な〝口述〟では読者に伝わりにくいということもあれば、放送でしゃべる内容との整合性が取れないことも生じかねず、それは芳しくありません。なので極力ついて回って、なにげない会話の中から、可能な限り表現に間違いのないように、を心がけたわけですが、その行動パターンの中で、毎週のメインレースのパドック解説をラジオNIKKEIさんのパドックブースで聴くことになりました。つまり、日曜に行われるほとんどのメインレースのパドックを、〝特等席〟で観ることができたわけです。

松本憲先輩のパドック解説と言えば、「知る人ぞ知る」といった類だったかもしれませんが、U局のテレビの中継番組に出演していた当時から、独特の語り調と正確さで、ファンの一部でちょっとした話題に上がっていました。現にラジオNIKKEIの某ベテランアナウンサーのS氏(わかっちゃうか)も、「松本さんは私のパドックの師匠です」と多少の社交辞令が入っているとしても、真顔で口にされてましたから。
ともかく、そんなような解説を直に、真横で耳にしながら周回する馬達を観れるんですから。「門前の小僧習わぬ経を読む」ではないですが、とてつもなく大きな財産になったことは言うまでもありません。

特に印象に残っている馬を、敢えて一頭だけに絞って挙げるとすると、05年安田記念のスイープトウショウでしょうか。
前年、秋華賞制覇後のエリザベス女王杯で5着に敗れて休養に入り、休み明けの都大路S5着。そこからのステップだったわけですが、初めての一線級の牡馬相手ですから、10番人気の低評価にとどまっていたのも無理はありませんでした。
その馬を掴まえて、
「やけに良くみえますねえ。一見すると特別に目立つ感じはないかもしれませんが、馬の造りや落ち着き払った風情とか、全体から醸す雰囲気と言いますか。こういう馬は走りますよ」
と一頭一頭の解説の際にこうコメントし、全馬の解説が終わって、まとめの際にもスイープトウショウを強調したのです。

その頃は既に、コメントを聞きながら「ふむふむ」と思えることが多くなっていましたが、この時だけはピンと来ないままレースを迎え、結果はクビ差2着。あまりに呆然としていたせいか、このパドックの件を観戦記で触れていないのは汗顔のいたりです。
パドック解説の多くが、人気だとか、解説者本人の打った予想の印に左右されがちになる中、この時の本紙・松本憲の印は△。勝ったアサクサデンエン(7番人気)がノーマークだったため、予想上のヒットにはつながらなかったのですが(馬連13990円)、それでも馬券に直結するパドック解説、みたいなものが感じられないでしょうか(パドック解説って本来そういうものでしょう)。
言うまでもなく、常にこういうヒットが続くわけではありません。が、どことなく〝古き良き時代〟を感じさせるエピソードとして、強烈に記憶に残っています。「あの時のスイープは、自分には引き出せなかったなあ」という忸怩たる思いとともに…。

そんなような様々な記憶を手繰りながら、週刊誌のコラム終了を数日後に控えて去来する思いは少なくありません。
競馬と向き合う際、若い時分にあったギラギラ感が徐々に薄れて行くのは誰にでも起こり得る現象です。それだけに、余計に始めた頃の記憶が鮮明だったりしますが、それらを過ぎたこととして忘れてしまうのは勿体なさ過ぎます。
そのうえで、昔のことを単なる〝昔話〟にしてしまうのではなく、〝現在〟と〝未来〟へつなげてこそだろう、と強く思う今日この頃。

あと2週で卒業する「今週の狙い馬」コーナーも、思い出話で終えるのではなく、しっかりと〝次〟を見据えているつもりですので、これからもよろしくお付き合いいただければと、この場を借りてお願い申し上げ、とりとめのない文章になってしまいましたが、今回は終わらせていただこうと思います。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。ここにきてオフィシャルもプライベートも近年以上に大変な一年になりそうで、緊張感がいや増しているところ。ますます重要になるのが健康第一、です。