新ルール導入にあたっての覚悟(山田理子)

 さて順番。この企画の開始以来初めてではないか、“リレーコラム”のタイトルにふさわしく、共通のお題「降着・失格の新ルール」でバトンが回ってきた。JRAは2013年1月1日から適用するこの新制度を“91年の降着制度導入以来の大変革”としていて、競馬マスコミに対して事前に複数回「意見交換会」を開いて説明・質疑応答を重ね、10月30日の正式発表以降はホームページで詳細を図解入りで説明したり(←非常に分かりやすい)、競馬場のターフヴィジョンやモニターでひっきりなしにVTRを流すなどして、新ルール浸透に力を入れている。日本競馬史においてポイントとなる改革であり、せっかくのバトンなので、水野、和田編集員に続いて私も少しばかりに意見を述べてみたい。

 私自身は新ルール導入について、どちらかといえば賛成だ。そもそも、ある事象について関わるすべての人が納得する万能なルールなどは存在しないので、落としどころとして、「国際的な競馬のルールの統一」だとか「到達順位の尊重」は分かりやすくていい。91年の降着制度導入以降に1位入線しながら降着となったメジロマックイーン(91年天皇賞(秋))、カワカミプリンセス(06年エリザベス女王杯)、ブエナビスタ(10年ジャパンカップ)の事例が新ルールではすべてセーフとなるわけだが、それについても異論はなく、むしろこれまでより多くのケースで裁定を受け入れられる気がしている。ただ、それでも、いくつか懸念材料はあり、それについては今から覚悟しておく必要がある。和田編集員の言葉を借りれば「片方に利すれば、片方は割をくう」の「割をくう」方の案件。起こり得る可能性があり、起こればきっと議論になるであろうが、新ルールには対応せねばならない。

 和田編集員の前回コラムにあった「失敗(ミス)や不正に厳しい日本の国民性、土壌には、受け入れられにくいのではないか」は確かにある。私たち競馬ファンは人馬一体となった駆け引きせめぎ合いに感動、興奮し、馬券を握りしめて競馬というスポーツ・ギャンブルを享受するわけだが、現行の【走行妨害が被害馬の競走能力の発揮に重大な影響を与えたか】の降着基準のもとで長らくレースを観てきたため、優勝馬(者)は常にクリーンであるべきだという根底がある。だから、08年のオークスや今年のジャパンカップのように、騎手が制裁・騎乗停止処分を受けながらも到達順位通りに確定した場合、どこかすっきりせず、釈然としない思いがいまだに残るのだ。新・降着基準【その走行妨害がなければ被害馬は加害馬に先着していたか】では、極端な例を挙げれば、1着入線したA馬が競走中に重大な影響を与えてB馬を落馬させ、それが大事故につながったとしても到達順位の通りに確定。不利によって騎手が落馬したり馬が怪我をして完走できなければその時点で【被害馬は加害馬に先着していたか】を立証するすべが失われ、裁定委員の議論さえもされない(注:極めて悪質でなければの条件つきだが、JRAは91年以降の事例に該当するものはないとしている)。頭で理解していても、こういった惨事を目の当たりにしたときに、果たして優勝したA馬(と騎手)に対して心から賛辞を贈れるものなのか。馬券どうこう以前に、いち競技として、結果を受け入れ難いのではないだろうか。

 新・降着基準【その走行妨害がなければ被害馬は加害馬に先着していたか】について思うところをもうひとつ言えば、競馬には、A馬に100回のうち99回は先着できないB馬が同じレースに出走しているケースが間違いなく存在する。何の不利もなくスムーズに回ってきても、A馬には先着できない実力で劣るB馬。それが走行妨害を受けながら先着するなど、どだい無理なハナシである。たとえば、こんな例……。開幕週で芝のコンディション良好。ハンデに恵まれ、B馬が好位の絶好ポジション。しめしめこちらの読み通りにペースも遅い。勝つことないだろうけど、3着には粘るでしょ……とにんまりしたところ、A馬がB馬の走行妨害をし重大な影響を与えてあらら4着に。ってことがあってもA馬はセーフ。現行ルールなら、A馬が降着処分を受けてB馬が繰り上がり3着の可能性があったが、新ルールでは、限りなく0%に近い確率で馬券は紙くずと化すので今から覚悟を。

 最後に二点、追記。6月のファイナルフォーム、ランパスインベガスの件で学んだように、加害被害はあくまで当事者同士の問題なので、他の馬が前後にいて不利がなければ着順が違っていた云々は、これからも一切考慮されない。賛否のあるところであり、馬券を買う側にとっては関係おおありの場面だが、今回のルール改定において変更はない。また、先週のジャパンカップを例にとった場合、ジェンティルドンナに騎乗した岩田騎手は「最後の直線コースで外側に斜行した進路の取り方が強引なものであった」ことについて制裁を受けたが「走行妨害」の裁定は下されていないため、2013年からの新ルールでも降着には該当しない。

 とまあ、前回、前々回と重複する部分があるのを承知で、ルール浸透のために書き重ねてきた。年が明けてどうなるんでしょうか。何かあればまたこの場で。

栗東編集局 山田理子