絶対王者不在の秋(宇土秀顕)

 牡馬クラシック最終戦の菊花賞、その本番がいよいよ今週の日曜に迫りました。ご存知の通り、今年は2冠馬不在の菊花賞。その2冠馬ドゥラメンテは、ダービーの直後から秋の進路が話題に上がっていましたが、夏の放牧中に骨折が判明。結局、秋の予定はすべてが白紙となってしまいました。もし無事だったら3冠に挑んでいたのか、それとも、現在のクラシック競走体系に一石を投じる道を選んだのでしょうか……。

 それはさておき、春シーズンに2冠馬が誕生しながら、その2冠馬が菊花賞に姿を見せなかったケースというのは過去にどれくらいあるのか? 振り返ってみたところ、今年を含めて全部で8例ありました。これまでに誕生した春の2冠馬(3冠馬を含む)は計23頭ですから、3頭に1頭は菊花賞の舞台を踏むことなく、3冠の夢を散らしたことになります。ちなみに、その顔ぶれは以下の通り。

年 度  馬 名 菊花賞回避の理由
1951年 トキノミノル 破傷風のためダービーから17日後に死亡
1952年 クリノハナ 菊花賞に向けての調整中に外傷
1971年 ヒカルイマイ 菊花賞前に屈腱炎を発症
1975年 カブラヤオー 菊花賞前に屈腱炎を発症
1981年 カツトップエース 菊花賞前に屈腱炎を発症
1991年 トウカイテイオー ダービーレース中に骨折していたことが判明
1997年 サニーブライアン ダービーレース中に骨折していたことが判明
2015年 ドゥラメンテ 放牧中に骨折が判明

 このうち、ダービーが現役最終戦となったのは、トキノミノル、カツトップエース、サニーブライアンの3頭。ダービーが最後の勝利となったのは、クリノハナ(ダービー以降5戦0勝)、ヒカルイマイ(同2戦0勝)の2頭。また、カブラヤオーはダービー以降4戦3勝の成績を残しましたが、重賞には未勝利。残る1頭、トウカイテイオーだけが2度にわたる長い闘病生活を乗り越えて、ジャパンC、有馬記念と再び大舞台で頂点に立ちました。これは皆さんがよくご存知の通り。現在、雌伏の時を過ごしているドゥラメンテも、不屈の闘志で復活を遂げたそのトウカイテイオーに続いてほしいものです。

 ところで2冠馬の出走が叶わなかった過去7回の菊花賞は、果たしてどのような結果に終わっているのでしょうか? 2冠馬という絶対的王者が抜けた後は、ナンバー2、あるいは、ナンバー3といった存在が順当に王座にスライドしてきたのか、はたまた、新たなヒーローが風雲に乗って栄冠を射止めたのか。今度はその7回の菊花賞馬を見てみると……。

年 度 馬 名 春2冠成績 菊花賞の人気
1951年 トラツクオー 皐⑧→ダ⑮ 5番人気
1952年 セントオー 皐不→ダ⑫ 1番人気
1971年 ニホンピロムーテー 皐⑩→ダ⑧ 1番人気
1975年 コクサイプリンス 皐不→ダ不 4番人気
1981年 ミナガワマンナ 皐⑫→ダ⑧ 14番人気
1991年 レオダーバン 皐不→ダ② 3番人気
1997年 マチカネフクキタル 皐不→ダ⑦ 3番人気

 結果はもう瞭然。皐月賞やダービーで上位を賑わした馬が優勝した例は1991年のレオダーバン1頭のみで、この年を除くと、いずれも絶対王者不在という状況の下、春の勢力図が描きかえられてきたことが分かります。
 ちなみに、どの年も2冠馬こそ不出走でしたが、その2冠馬と覇を競った春の実績馬の出走はありました。例を挙げると、マチカネフクキタルが勝った1997年の1番人気はシルクジャスティス(ダービー(2)着)、2番人気はメジロブライト(ダービー(3)着)。レオダーバンが勝った1991年の1番人気はイブキマイカグラ(皐月賞(4)着)、ミナガワマンナが勝った1981年の1番人気はサンエイソロン(ダービー(2)着)、そして、コクサイプリンスが勝った1975年は1番人気がイシノアラシ(ダービー(5)着)、2番人気がロングホーク(皐月賞(2)着)、3番人気がハーバーヤング(ダービー(3)着)。
 少なくともいま例に挙げた馬たちは、これら春の既成勢力を堂々と打ち負かしての勝利だった訳です。

 さて、今年で8度目となる〝絶対王者不在の秋〟は、はたして過去の傾向が踏襲されるのでしょうか。それとも、春の実績馬がデータを覆して底力を見せるのでしょうか……。
 ちなみに、前出7頭の菊花賞優勝馬の共通点をもう一度整理しておくと……。

 (1)春のクラシックで入着実績があったのはレオダーバンだけ
 (2)ただし、クラシック不出走だったのはコクサイプリンスだけ
 (3)菊花賞本番で6番人気以下だったのはミナガワマンナだけ

 人気に関してはレース当日まで分かりませんが、過去のデータ通りになるのなら、戴冠を果たすのはこれらの条件に叶う馬。今年のメンバーを見渡して、その可能性があるのはミュゼエイリアンあたりではないかと考えています。
 さて、結果やいかに?

美浦編集局 宇土秀顕

宇土秀顕(編集担当)
 昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。『リレーコラム』から『週刊トレセン通信』となり、内勤編集員という立場で執筆陣に残ることは肩身が狭いが、競馬の世界、馬の世界の面白さを伝える、そんなコラムが書けたらと考えている。趣味は山歩きとメダカの飼育。
 さて、これは決してW杯の結果を受けて言うのではなく、トップリーグ創設時から違和感のあったこと。ラグビーの勝ち点制って一体なんでしょう? たとえば、互いにオフェンスでもディフェンスでも高い意識を持ち、息の詰まるような攻防が展開されても、結果が17対7ならその試合で発生する勝ち点は両チーム合わせても4点。一方、ノーガードの殴り合いのような試合で50対45といった結果になれば、発生する勝ち点はおそらく7点。果たして、後者の試合に前者の2倍に近い価値があるのでしょうか……。
 どんな競技にも通じることですが(勿論競馬にも)、ルールやシステムというものは、その競技の真の魅力を引き出すため、伝えるためにあるべきもの。そうでなくてはいけないはずです。それでもラグビーファンはずっとやっていますが……。