血統閑談#006 平和的な仇討の話(水野隆弘)

 2か月ぶりの不要不急の血統コラムです。しばらくの間お付き合いください。
 京都新聞杯G2が行われた翌日、5月8日の朝の栗東トレセンで佐々木晶三調教師から「時計教えて」と電話がかかってきました。「昨日(の京都新聞杯)は惜しかったですね」というと「キズナにやられた~、泣いてる!」と。京都新聞杯G2は佐々木調教師の管理馬ヴェローナシチーが直線で先頭に立ち、押し切ったかと見えたところをアスクワイルドモアが差し切りました。ヴェローナシチーはエピファネイア産駒。アスクワイルドモアはそのライバルのキズナ産駒で、現役時代のキズナは佐々木調教師の管理馬でした。キズナとエピファネイアは2013年の日本ダービーG1でエピファネイアが直線で抜け出したところをキズナが差し、翌年の大阪杯G2ではやはりキズナが勝利しエピファネイアは3着でした。エピファネイアは菊花賞G1やジャパンカップG1も勝ち、4歳時のワールドベストレースホースランキング2014では129のレーティングで世界2位となったほどの名馬ですが、直接対決では分が悪かったのです。
 2頭は種牡馬としても同期デビューなので、ライバル関係はそのまま次の代まで引き継がれることになりました。こう書くと当たり前のようですが、同世代2頭の名馬が揃って種牡馬としても成功するということは大変難しいのです。
 アスクワイルドモアはこれでキズナ産駒としてディープボンドに続く京都新聞杯G2父仔制覇となったわけで、佐々木調教師にとってはキズナとエピファネイアの因縁が少しねじれた形で現れてしまいましたが、父から仔への流れとしては見事な再現であったといえます。
 初年度のキズナ産駒とエピファネイア産駒が最初の対決を迎えたのは2019年6月2日の阪神2日目5Rの新馬戦でした。JRAの2歳戦開幕週から対決が実現していたことになります。結果はエピファネイア産駒のレッドブロンクスが2着、キズナ産駒ペプチドサクラは8着に敗れました。その年の10月13日の京都4日目2Rの未勝利戦ではレッドブロンクスが1着となり、2着がキズナ産駒のモンサンイルベントでした。エピファネイア産駒とキズナ産駒のワンツー決着はこれが最初でした。
 2019年6月の産駒デビューから、先週(2022年5月8日)までの成績をまとめると、キズナ産駒とエピファネイア産駒は743レースで対戦があり、キズナは(85.78.81.703)、対するエピファネイアは(89.78.77.713)でした。誤差の範囲に収まるほど拮抗しています。ただし、これはお互いライバルがいると燃えるとかそういうことではなくて、それぞれの勝率や連対率は互いにライバル不在の普段のレースとほとんど変わりません。当たり前です。馬には父の仇などといった概念があるわけがありません。
 盛り上がりに欠ける内容になってきましたが、もう少しの辛抱です。京都新聞杯G2のような両馬の産駒のワンツー決着はどれくらいあったのでしょうか。2013年日本ダービーG1の再現か、逆転かといった結果です。結論から申し上げますと、15回しかありませんでした。743分の15です。数え漏らしがあるかもしれませんが、まあ、そんなものなのです。
 最初は前述の2019年10月13日京都2Rの未勝利戦です。わずか15Rなので全部書き出してしまいましょう。

●2019年10月13日・京都2R 2歳未勝利
 1着 レッドブロンクス(エピファネイア)1人気
 2着 モンサンイルベント(キズナ)4人気
 馬連 850円 馬単 1230円
●2019年12月7日・中京7R 2歳未勝利
 1着 メイショウボサツ(エピファネイア)4人気
 2着 オールザワールド(キズナ)1人気
 馬連 730円 馬単 2000円
●2019年12月28日・阪神6R 2歳1勝クラス
 1着 クリスティ(キズナ)1人気
 2着 アリストテレス(エピファネイア)5人気
 馬連 1040円 馬単 2100円
●2020年1月19日・中山11R 京成杯G3
 1着 クリスタルブラック(キズナ)7人気
 2着 スカイグルーヴ(エピファネイア)1人気
 馬連 2760円 馬単 8220円
●2020年1月26日・京都10R 若駒SL
 1着 ケヴィン(キズナ)3人気
 2着 アリストテレス(エピファネイア)4人気
 馬連 1080円 馬単 2140円
●2020年7月25日・新潟7R 3歳未勝利
 1着 カイザーライン(エピファネイア)1人気
 2着 ブラインドデート(キズナ)8人気
 馬連 3190円 馬単 5260円
●2020年12月6日・中京9R こうやまき賞1勝
 1着 ダディーズビビッド(キズナ)3人気
 2着 シティレインボー(エピファネイア)5人気
 馬連 3220円 馬単 6390円
●2021年1月16日・中山8R 4歳上1勝クラス
 1着 チョーズンワン(キズナ)1人気
 2着 ロワマージュ(エピファネイア)2人気
 馬連 610円 馬単 1080円
●2021年6月20日・阪神11R マーメイドSG3
 1着 シャムロックヒル(キズナ)10人気
 2着 クラヴェル(エピファネイア)5人気
 馬連 11970円 馬単 21960円
●2021年10月16日・阪神10R 北國新聞杯2勝
 1着 リノキアナ(エピファネイア)4人気
 2着 オールザワールド(キズナ)3人気
 馬連 1930円 馬単 4490円
●2021年10月17日・新潟12R 菅名岳特別2勝
 1着 セイクリッドゲイズ(エピファネイア)8人気
 2着 レプンカムイ(キズナ)1人気
 馬連 1560円 馬単 4930円
●2021年12月26日・中山11R 有馬記念G1
 1着 エフフォーリア(エピファネイア)1人気
 2着 ディープボンド(キズナ)5人気
 馬連 1740円 馬単 2070円
●2022年3月26日・中京5R 3歳未勝利
 1着 コントゥラット(エピファネイア)2人気
 2着 ナリタイチモンジ(キズナ)8人気
 馬連 5430円 馬単 7660円
●2022年5月7日・中京11R 京都新聞杯G2
 1着 アスクワイルドモア(キズナ)8人気
 2着 ヴェローナシチー(エピファネイア)7人気
 馬連 7500円 馬単 17150円
●2022年5月8日・中京4R 3歳未勝利
 1着 ベリーヴィーナス(キズナ)2人気
 2着 エピプランセス(エピファネイア)3人気
 馬連 700円 馬単 1580円

 キズナ8勝、エピファネイア7勝とここでも両者は拮抗しています。昨年の有馬記念G1は父と仔がそれぞれ同じ勝負服でしたから、鮮やかなリベンジ成功といえるでしょう。絶対数が少ないので狙い撃ちはおすすめしませんが、結構な高配当もありますね。両者のワンツー決着は年を追って1例ずつ増えていますので、今年もあと3例くらいあるのではないでしょうか。

栗東編集局 水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。年に1回の健康診断を受けてきました。今回は1週前から節制しました。付け焼き刃の急仕上げではありますが、その成果か減るべきものが減り下がるべきものが下がっていました。どうでもいい話ですが、何事もやらないよりはマシな場合があるかもしれないという教訓が得られました。