血統閑談 #004 偉業4連覇(水野隆弘)

 1月11日のJRA賞に続き、17日にはNARグランプリが発表されました。JRA賞ではブリーダーズCディスタフG1を制したマルシュロレーヌに特別賞が与えられませんでしたが、NARグランプリでは特別表彰馬に選定されました。
 選出理由をNARのホームページから引用します。

 「レディスプレリュード(Jpn2)、TCK女王盃(Jpn3)、エンプレス杯(Jpn2)、ブリーダーズゴールドカップ(Jpn3)と、様々な競馬場と距離で4勝を上げ、牝馬ダート世界ナンバーワン決定戦ブリーダーズカップディスタフ(G1)で世界制覇の偉業を成し遂げたマルシュロレーヌが、地方競馬のレースで能力を開花させ、世界最高峰のレースを制するに至った同馬の蹄跡や、この快挙が日本で実施されているダート競走の地位を大いに高めてくれたことなど、多くの委員から同馬の活躍を賞賛する声が寄せられ、全会一致で選定された。」

 良かったですね。私も無駄に長くこの仕事をしているためJRA賞の投票には参加しています。投票で心掛けていることは、奇をてらわないよう、死に票にならないよう、しがらみにとらわれないようにという3点です。しかし、最優秀ダート馬に関しては、テーオーケインズの実績を認めつつもマルシュロレーヌに1票を投じました。意外な大差でタイトルはテーオーケインズのものとなりましたが、それはそれで正解なのだと思います。こういった表彰ごとは、白とも黒ともいえない微妙なことを、白か黒かのどちらかをはっきりさせないといけないのがつらいところで、特にJRA賞でマルシュロレーヌに特別賞を与えるかどうかは難しい議論だったと思います。今回は「特別表彰馬」としたNARグランプリのファインプレーだったと思います。
 単年度ではすくいとれない功績も評価するのが「特別表彰馬」の制度で、今回は東京大賞典4連覇の偉業を達成したオメガパフュームも候補には上がったようですが、選定されるまでには至りませんでした。総花では表彰になりませんから、仕方のないことではあります。
 2015年生まれのオメガパフュームは3歳時にジャパンダートダービー2着、シリウスSG3に勝って、JBCクラシックで2着となると、チャンピオンズCG1では5着に敗れます。そのため東京大賞典G1では3番人気にとどまりましたが、後方から向正面で中団まで上がり、4角手前から加速しつつ外に出して、直線で有力馬が一団となる追い比べから抜け出して、ゴールドドリーム、ケイティブレイブを抑えてG1初制覇を飾ります。
 翌2019年は上半期に帝王賞に勝ち、JBCクラシック2着、チャンピオンズCG1・6着と前年をトレースするような過程を経て東京大賞典G1に臨むと中団から4角では前を射程に捉える4番手まで上がり、直線で早めに抜け出すと追ってきたノンコノユメに1馬身の差をつけました。この年はジャパンダートダービーとチャンピオンズCG1に勝った3歳のクリソベリルがJRA賞最優秀ダート馬のタイトルを得ました。それでも東京大賞典連覇はアジュディミツオー、スマートファルコン、ホッコータルマエに続く史上4頭目の快挙で、帝王賞とセットの勝利でもありましたので、NARグランプリダートグレード競走特別賞を受けています。
 5歳時の2020年は平安SG3の勝利でスタートし、帝王賞、JBCクラシックともにクリソベリルの後塵を拝して2着に終わりますが、東京大賞典G1では5番手から直線で先に抜けたカジノフォンテンとの追い比べとなり、クビ差競り勝ちます。アドマイヤドンやヴァーミリアンがJBCクラシックを3連覇していますが、国際G1の3連覇はこの時点で日本初の記録となりました。
 2021年は川崎記念2着、帝王賞5着、JBCクラシック2着の3戦を経て、東京大賞典G1に臨みます。照準ピタリといった感じですね。レースでは中団やや後ろから向正面で進出すると3角で3番手にまで上がります。4角で外にふくれますが、軌道修正すると残り200mでは内から伸びたクリンチャーとの一騎打ちとなります。クリンチャーはよく抵抗しますが、最後はオメガパフュームが1/2馬身前に出て4連覇を達成しました。
 父スウェプトオーヴァーボードUSAはエンドスウィープUSAからフォーティナイナーUSAへと遡る父系。スウェプトオーヴァーボードUSA産駒にはスプリンターズSG1連覇のレッドファルクスがいるかと思えばステイヤーズSG2に勝ったリッジマンもいて、ミスタープロスペクター系のスピードを突き詰めたところで出現した万能型種牡馬ということができますが、サラブレッド血統センターの藤井正弘さんはオメガパフュームの息の長い活躍について「消長の激しいダートの選手権距離の同一G1・4連覇は歴史的快挙といえる。驚くべきキープ力の源泉を血統に求めるなら、全7勝中6勝をオープン特別を含む2400~2500mで挙げたリアルシャダイ産駒の祖母ビューティーメイクだろう」(スポニチ令和4年1月8日付)と推測しています。懐かしいですね、ビューティーメイク。非常に長期間走っていた印象があるのですが、今でいう2~5歳時の足掛け4年の競走生活でした。5歳時に初めて1500万下(今でいう3勝クラス)で、オープンのドンカスターS(2400m)で勝ちました。この年11戦もしているので、「いつも走っている」印象があったのかもしれません。最近ではリアルシャダイの名を血統表の中で見ることも少なくなってきましたから、そういった意味でも貴重な存在です。また、スウェプトオーヴァーボードUSA~エンドスウィープUSA~フォーティナイナーUSAの父系に備わったミラクルを起こし得る力は将来を展望する上でも楽しみです。
 さて、グループ/グレード制が導入されて以降、国際セリ名簿基準書のパート1国ではG1・4連覇が最高です。オメガパフューム以前には6頭少なくとも8頭(※)います。古い順に見ていきましょう。
 1994年生まれのタイザノット Tie the Knot はG1・13勝のオーストラリアの名馬。秋のシドニーの1600m戦のチッピングノートンSG1を4連覇しました。シドニーCG1(3200m)連覇もあるステイヤーです。ちなみにタイザノットとは「結婚する」という意味の熟語ですが、本馬はセン馬のため2012年に死ぬまで独身でした。2021年にはオーストラリアの競馬の殿堂入りを果たしています。
 アイルランドで1998年に生まれたヴィニーロウ Vinnie Roe は愛セントレジャーG1を2001年から2004年まで4連覇しました。芝14Fの超長距離戦です。このレースは1983年から古馬に開放されているので、ヴィンテージクロップ、オスカーシンドラー、カイフタラといった名ステイヤーが連覇しています。最近では2019年と2020年に牝馬のサーチフォーアソングが連覇しました。
 イェーツ Yeats は2001年にアイルランドで生まれました。父サドラーズウェルズ、母リンドンヴィル、母の父トップヴィルという欧州ステイヤーらしい血統で、8歳上の半兄にエプソムCに勝ったツクバシンフォニーGBがいます。5歳時の2006年から8歳時の2009年まで、アスコットのゴールドCG1を4連覇するとともに、欧州の年度表彰であるカルティエ賞でも2006年から2009年まで最優秀ステイヤー部門を“4連覇”しています。
 マイルの名牝ゴルディコヴァ Goldikova は2005年生まれのアイルランド産フランス調教馬。夏のドーヴィルの牝馬限定戦ロートシルト賞G1(1600m)を2008年から2011年まで4連覇しました。G1を14勝した名牝で、ほかにイスパーン賞G1(1850m)連覇、ブリーダーズCマイルG1を3~5歳時に3連覇し、4連覇をかけたチャーチルダウンズの引退戦では早めに先頭に立ったところを伏兵コートヴィジョンとテュラルーアに差されて3着に終わってしまいました。
 2011年生まれのウィンクス Winx はオーストラリアの名牝です。現役のまま殿堂入りを果たして既に歴史的存在になりました。通算43戦37勝2着3回。2015年のサンシャインコーストギニーズG3から、引退するまで33連勝。そのうち25がG1という凄まじい記録を残しました。コックスプレートG1・4連覇、チッピンクノートンSG1・4連覇、ジョージライダーSG1・4連覇のほか、クイーンエリザベスSG1・3連覇、ジョージメインSG1・3連覇、ウィンクスSG1・3連覇があります。このうちウィンクスSG1はワーウィックSG1から改称したもので、自身の名を冠したレースを勝ったことになります(オグリキャップがオグリキャップ記念に勝つような)。もちろん、年度代表馬のタイトルも2015/16年から2018/19年まで4連覇を達成しています。
 ストラディバリウス Stradivarius は2014年のアイルランド産で、英国のスーパーステイヤーとして知られます。グッドウッドCG1(16F)がG1に昇格した2017年から4連覇しました。2021年は5連覇がかかっていましたが、馬場悪化を嫌って回避してしまいました。アスコットのゴールドCG1は2018年から2020年まで3連覇していましたが、2021年は4着に敗れています。全盛期の5歳時2019年の盤石の強さに比べると翳りが見えるのは否めませんが、今年も現役続行のようです。G1連覇記録は途切れましたが、欧州パターン委員会の超長距離振興政策にタイムリーな実りをもたらした立役者であり、グッドウッドCG1・4連覇+1の5勝目がなれば、それはそれで空前の記録となります。
 こんないい方をしていいのかどうかは分かりませんが、凱旋門賞馬もダービー馬も毎年1頭は現れます。しかし、同一G1・4連覇を達成した馬はグループ/グレード制導入後の50年でたった7頭少なくとも9頭(※)しかいないのです。表彰はなくとも、記録それ自体が偉大なのだといえるでしょう。

※1月22日追記。フォアゴー Forego(1970年生まれ、セン、米国産)がウッドワードSG1を1974年から1977年まで4連覇していました。また、ポケットパワー Pocket Power(2002年生まれ、セン、南アフリカ産)がクイーンズプレートG1(南ア、芝1600m)を2006年から2010年まで4連覇しました。「週刊競馬ブック2022年1月24日号、合同フリーハンデ~3歳以上ダート(藤井正弘)」のゲラを読んで「あっ!」と気付きました。訂正します。ひょっとすると他にまだいるかもしれません。

栗東編集局 水野隆弘

水野隆弘(調教・編集担当)
昭和40年10月10日生まれ、三重県津市出身
1988年入社。週刊誌の編集、調教採時担当。もう長いこと盆と正月は合同フリーハンデの集計でヒーヒーいっています。いや、ヒーヒーと声には出しません。そういう気持ちというだけです。競馬という遊びを仕事にしているのだから、盆と正月くらい働けということかもしれません。山野浩一さんは生前、「フリーハンデと確定申告が重なる時期は死にそうになるよ」といっていました。死ぬのは嫌なので確定申告がいるほど稼ぐまいと決めています。