時代は変わっているけれど(吉田幹太)

 忙しくなる暮れから正月。

 世間は勿論だけれども、我々の商売も過密日程で少しばかり忙しくなる。

 忙しいのは忙しいのだけれども、いつもとは違う時間の流れ方になる分だけ、まとめた休みは取りやすくて、ちょっとした空き時間もできる。

 いつものルーティーンで動いてばかりいると、ついつい流れ作業のように日々を過ごしてしまう。普段ほっといていたことや、気になったことを考えるのにはいいタイミング。

 とはいえ、大抵、考えても答えが出ないようなことばかりなのだけれど……

 せっかくの時間を無駄に使っているような気もする。それでも、のちのち、頭の中を整理するのには意外と貴重なこと、だったのではないかと最近は思えるようになった。

 今年の暮れも実家に帰り、外に出ても寒いだけなので、家の中でもんもんと答えの出ないようなことを考えながら過ごしていました。

 暮れはテレビのタイムテーブルも普段と大きく変わっている。あえて、手間とお金をかけてまで見ようとは思わない程度の懐かしくて、いい印象のあった番組をやっているのでついつい見入ってしまう。

 忘れてしまった10年前、20年前の記憶がふっと思い出される。ネットでいろいろ調べて、動画を見て確認したりして、あっと言う間に時間が過ぎる。そして、年が明け、いつのまにか2日になる。もう明日からは仕事だ。

 いつもの、毎日のルーティーンの繰り返しに戻り、成長のないまま時が過ぎて、あっと言う間に50歳を過ぎていた。

 ちょっと感傷的になるのは非日常なだけではなく、きっと寒さのせいもあるのだろうが……

 「ヒーローたちの20世紀」という番組がNHKで放送されたのはもう30年近く前だろうか。

 番組自体はイギリスのBBCが制作したもので、全8回で世界的な有名人を扱いながら近代史を振り返るようなものだった。

 プレスリーにビートルズ、マリリン・モンローにジョン・ウェインなどなど、いろんな人たちが出てきて昔の映像にその背景のナレーションが入る。そして、番組の大きな軸になっているのはアメリカの大統領。

 20世紀のヒーローは大統領をたどることで、ある程度、集約されるのではないかと感じさせられる番組の作り方で、実際にそうだったのかもしれない。

 今の21世紀はどうだろうか?

 当然、ニュースでアメリカの話題は大きく扱われるけれど、そこに出てくる大統領はヒーローと言っていい存在なのかどうか。

 テロがあって、今はコロナの真っ只中。

 自分の20代、30代の頃とは背景も価値観も大きく変わってしまったのは確かだろうけれども、アメリカが憧れの存在ではなくなりつつあるのかもしれない。

 そんなことをこの年末から年明けにかけて考えていた。

 いい悪いは別として、確実に時代は変わっている。

 そして自分の信じていた価値観も通用しなくなりつつある。

 競馬にも同じことが言える。

 トップレベルの馬のローテーションは勿論、調整の仕方も自分が入社したころとは大きく変わってきた。

 一方、海外の競馬は馬券を発売することによってうんと身近になった。特に2021年は日本馬がブリーダーズカップを制しただけではなく、その2勝の中身が衝撃的だった。

 ラヴズオンリーユーは決して日本のナンバー1だったわけではなく、マルシュロレーヌに関しては日本でのGI勝利すらなかった。

 適性さえあれば、日本生産、調教馬が海外のトップレベルの馬達と渡り合えるだけの絶対値を備えているという証明になったのではないだろうか。

 2021年はのちのち、振り返った時に、大事なターニングポイントだったということになるかもしれない。

 日本馬の海外遠征のハードルはうんと下がった。小回りコースよりは広いコースで、右回りより左回りで、そして深い芝、速いダートを求めての遠征が成り立つ時代が来たのかもしれない。

 世間的にはまだいい状況ではないけれど、こと競馬に関してはいい材料ばかりだ。

 自分としても海外馬券の攻略法を大きく考え直さなければならない。

 今までは人気がないであろう外国馬を中心に買っていたが、これからは日本での成績がそれほど良くなくても、適性の高そうな日本馬が狙い目になるのかもしれない。

 まずはドバイまでにしっかり考えをまとめ、第2のマルシュロレーヌのような馬を探さなければならない。

 いやいや、その前にまずは日本の競馬で資金を作らなければ。

 どうも、それが一番難しそうです。

美浦編集局 吉田 幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
 道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。