天皇賞春を遠くから観戦してみた(田村明宏)

 枠順や位置取りだけで結果が変わるのではなく各馬が力を出し切ってゴールする。久々にそんなレースを見た気がする。京都競馬場の改修工事の関係で27年ぶりに阪神競馬場で行われた天皇賞春はワールドプレミアがレコードタイムで勝利した。コースが違うので単純な比較はできないし、近年は特に芝コースの整備が進んで馬場の高速化が進み、3分14秒7というタイムも京都ならいたって平凡。4年前にマークされたキタサンブラックのレコードと比べると2秒2も劣るのだが、直線に坂がある阪神でしかも連続開催の最終週だったことを考えると評価できるのではないか。当日の落馬で北村友騎手から坂井瑠騎手に乗り替わったのは想定外だったが、ディアスティマがハナを切ったのは大方の予想通り。前半の1000m通過は59秒8と平均的だが、2000m通過が2分1秒3と緩みのない流れ。更に3~4角の残り800mからはカレンブーケドールが前を捉えに行って11秒9とペースアップ。息が入らず苦しい展開になり直後で先頭に立とうとしたディープボンドの更に外から伸びてきたのがワールドプレミアだった。ただ、勝ち馬がマークした上がりタイムも最速で36秒7。勢いよく追い込んだというよりも見た目でもバテ合いを制したという印象だった。

 最近10年でも先述のキタサンブラックとフェノーメノ、フィエールマンがこのレースを連覇したが、前の2頭は2000mの天皇賞秋でも好走した実績があり、スピードもあったし、更にフィエールマンなどは上がり33秒9という脚で菊花賞を勝ったように瞬発力を秘めた馬で決して生粋のステイヤーという訳ではなかった。ワールドプレミアは重賞勝ちが菊花賞と天皇賞春だけ。それ以外の距離ではエンジンの掛かりが遅く届かないという走りでひと昔前の長距離馬を彷彿させるものがある。「今回は本当に走り切った感じで息が上がっていた。この後は秋まで休ませる」とウインマリリンの手塚調教師が言えば、「見せ場は作ったけど、スタミナ勝負では厳しかった」とカレンブーケドールの国枝調教師が振り返ったように牝馬には苦しいタフなレースだった。昨年から吹き荒れていた牝馬優勢の風もここでは味方しなかったようだ。今年は特殊なコース設定ということで福永騎手が某メディアでレース前に解説されていたが、ほとんどが読み通りだったのは驚かされた。最後は内枠を生かしてロスを抑えたレース運びもうまく行ったのだろう。初騎乗の馬の特徴を的確に捉えて自身の重賞150勝という区切りの勝利をここで達成。今やベテランだが、更なる活躍が期待される。

 ところで今回の天皇賞春が27年ぶりに阪神で行われたことは冒頭でも述べたが、その27年前のレースは偶然にも競馬場で生観戦。その後もこのレースを生観戦する機会はなく何とも貴重な経験をしていたのだ。勝ち馬は岡部幸雄元騎手が騎乗したビワハヤヒデで横綱相撲で完勝していた。当時のレースを映像で振り返ると鞍上は前向きを生かしつつ積極的な競馬をしてそのまま押し切っていた。稍重馬場だったので3分22秒6とタイムは要していたが、着差以上に強い内容でその後のスピード競馬につながるような勝ちっぷりだった。予定通り行けば少なくとも来年は同じように阪神で行われるこのレース。スタミナが問われるタフな競馬になるのかそれとも近年のスピード勝負に戻るのか興味は尽きない。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
オークス、ダービーを控えてトレセンにも続々と2歳馬が入厩している。新馬開催が始まるのももうすぐだ。その中で3歳未出走でデビューを予定しているのが国枝厩舎のグラヴィル。無敗でフランスオークスを勝ったラクエソニエールの全妹という超良血。クラシックは間に合わなかったが、動きがよく初戦から注目したい。