遠足の前日のようで(坂井直樹)

 こんにちは、栗東の坂井です。

 無敗の三冠馬2頭に続き、アーモンドアイもジャパンCへの出走を表明しました。日本における三冠馬同士の対戦は、オルフェーヴルとジェンティルドンナが2012年のジャパンCで1度、ミスターシービーとシンボリルドルフが1984年ジャパンCと有馬記念、翌1985年天皇賞(春)と3度対戦した例があり、順調ならこれら以来の5度目となります。

 三冠馬の初対戦、84年のジャパンC前の雰囲気を探るべく、当時の週刊誌をめくってみると……。

84年JC検討記事
▲1984年ジャパンC特集の1ページ目

 『海外の強豪を相手に三冠対決 まさに夢…競馬の黄金時代到来!』との見出しが躍ります。まだ日本馬がジャパンCを勝っていない時代。本文には「今回は最強馬を2頭も送り込むのだ。SM両馬はかなりの勝負をやってくれるのではないか」と日本馬によるジャパンC初制覇への並々ならぬ期待が窺えます。一方、三冠馬2頭については「ミスターシービーとシンボリルドルフのどっちが強いか予想するだけでも難題」。今回も同様の悩みを抱えるわけですが、これはいわゆる「嬉しい悲鳴」でしょう。ちなみに当時の誌上では「無謀にも結論を出せば」とシンボリルドルフを上位に取っていました。

 94年に競馬を見始めた私が同じような高揚感を覚えたレースは何だったか…と考えてみました。思い出すのは98年毎日王冠です。当時、まだ高校生でした。金鯱賞で後続を1秒8ち切り捨て、宝塚記念でステイゴールドやエアグルーヴらを完封したサイレンススズカと、圧倒的な強さでデビューから4戦4勝、朝日杯3歳Sを制したあと骨折で春を全休に充て、ここが復帰戦となるグラスワンダー、そしてNHKマイルCまで5戦5勝とこちらも無敗で秋を迎えたエルコンドルパサーの初対戦。このあたりは今年のジャパンCと似たような状況かもしれません。武豊騎手の手綱に戻ったサイレンススズカがどんな逃げを見せるのか、マル外の(旧)4歳2頭が快足グランプリホースを相手にどんなレースをするのか、そもそも初対戦の4歳2頭の優劣はどうなのか。グラスワンダーもエルコンドルパサーも的場均騎手のお手馬だったため「的場騎手がどちらを選ぶのか」にも注目が集まりました。

98年毎日王冠
▲1998年毎日王冠の検討ページ

 結果はご存知の通り、サイレンススズカがスピードにモノを言わせて圧倒。フジテレビ青嶋達也アナの「どこまで行っても逃げてやる!」の実況は未だに鮮烈です。初めて土がついた4歳2頭も、2着エルコンドルパサーが次走でジャパンCを制し、5着グラスワンダーもアルゼンチン共和国杯6着を挟んで有馬記念を制覇しました。今振り返っても私の中では「世紀の一戦」です。

 さて、今年のジャパンC。これほどのレースが入場者数を制限されたなかで行われることに淋しさを覚えずにはいられませんが、多くのファンの記憶に残るレースになることは間違いありません。レースまであと約2週間。わくわくしながら過ごすには長いのか短いのかはわかりませんが、難解な予想も含めて、贅沢な時間を堪能したいと思います。

栗東編集局 坂井直樹

坂井直樹(調教・編集担当)
昭和56年10月31日生 福岡県出身 O型
2004年入社。私はジャパンCを目の前で見ることは叶いませんが、それならそれで感じられる“今”はあるはず。それも含めて後世に語り継ぐべく、この戦いを見届けたいと思います。余談ですが、98年毎日王冠で私が心を奪われたのは強い3頭ではなく、測ったようにゴール前で3番手に浮上したサンライズフラッグでした。次走の天皇賞でもゴール間際で3番手に浮上。こんなキャラクターが好きなのは当時からのようです。JC当日までにサンライズフラッグのような馬を見つけたい。