自身の力で邪気祓いを(田村明宏)

 新型コロナウイルス対策で4月7日から1カ月の期限で出されていた緊急事態宣言は5月4日に改めて31日まで延長することが発表された。自宅が東京にあって週中は茨城県で仕事をしている私にとっても行動が制限されるところなのだが、水曜日、木曜日にはトレセンで取材し、土曜日、日曜日に競馬場で取材するパターンはいつも通り。春の福島の開幕週には例年通り出張。更に読者の皆さんが長期休暇を取られるゴールデンウイークも中央競馬に携わっている身としては普段よりも交流重賞が多く行われる以外はほとんど無関係。皐月賞は無観客でのクラシックレースになったが、記者として仕事をしている都合上、レースそのものは見てもその後の、表彰式などのセレモニーは見ることがないので幸いにして自分自身の生活が大きく変わったと実感することをせずに済んでいる。勿論、毎日の検温はしっかりやっているし、取材現場ではマスク着用は必須。手洗いなども入念にやっているが、今のところ感染の不安もない。だから目に見える形で恐怖を感じることはないが、テレビやネットを見て得る情報ではやはり不安に心をかき乱されていた。

 直径が80~220ナノメートルと単位を言われてもピンと来ない新型コロナウイルスだが、少なくとも人間の目で見えないことだけは分かる。今回のコロナウイルスも毎年のように流行するインフルエンザウイルスも大きさは微小で自身で増殖することもできない、いわば虚弱な存在なのだが、人間に寄生することによって力を発揮する。これに似ているのが細菌でウイルスよりは少し大きいが、やはり見ることはできない。歯の治療をしている私も目に見えない細菌によって苦しめられている。ウイルスも細菌も人間からするとちっぽけな存在で必ずしも悪という訳ではないが、ある種の条件が重なると悪い影響を及ぼしてしまう。残念ながら今のところ効果的なワクチンも見つかっていないが、少なくとも現時点でわが国ではうまく抑え込めているし、決定的なダメージも受けていない。今後もしばらくは完全に消滅できないとしても極端に広がらないように付き合うことになるのでは。

 熱発で香港遠征を断念し、まさかの有馬記念出走でデビュー以来初の大敗を喫したアーモンドアイ。今年に入ると馬自身には無関係だが、人間社会を脅かすコロナウイルスの影響でドバイミーティングが中止になって、無念の出走断念。ここまでは何か目に見えない力で邪魔されているような気がする。それは細菌とかウイルスというような生物のせいではなくもっと抽象的なものだが、我々の目で見ることができないものということでは共通するように思う。今週末にはそのアーモンドアイが登場する。このまま行けばレースレコードが出てもおかしくない絶好の馬場の東京コース。ヴィクトリアマイル出走もギリギリまで状態面を確認してのものだから彼女の力を信じたい。コロナウイルスという目に見えないものによる恐怖と自身のキャリアに降りかかっている邪気を今週のレースではすっきり晴らしてくれることに大いに期待する。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
ヴィクトリアマイルはアーモンドアイ中心と考えているが、相手選びは一筋縄ではいかない。その中で条件戦を勝ったばかりだが、勢いのあるセラピアに注目したい。前走は牡馬相手の3勝クラスで楽勝。「初めて乗りますが、能力はありそうです。アーモンドアイより後ろからでは厳しいので先行してスピードを生かす競馬ができれば」と騎乗予定の田辺騎手は満更でもなさそうだった。