3月の大雪と中央競馬(田村明宏)

 3月29日、日曜日。東京では今シーズン初めてとなる1センチの積雪があった。記憶にないほどの暖冬だった今年は桜も開花してもう冬は来ないと油断していたら中山競馬が3R以降が中止になってしまった。前回の私の出番では今年初のGⅠレースが天皇誕生日と重なるので御めでたいことだと書いていたが、今になって見るとのんきなことを考えていたなと反省している。何のことはない、その翌週からコロナウイルスの影響で無観客競馬が始まって今までそれが続いている。欧米諸国に比べれば日本は幸いにして感染者が少なく、まだ日常生活を維持できているが、油断は禁物だ。この状況で競馬だけ通常通りの開催は難しいし、しばらくは我慢するしかないのだろう。同日に中京で行われた高松宮記念は2位繰り上がりだったものの、24歳の松若騎手がGⅠ初制覇。時代は確実に前に進んでいる。

 3月末になって大雪が降ったのは記憶にないと思っていたら、東京でこの時期に雪が降ったのは記録によると32年ぶりだという。当時、1988年は3月26日に雪が降ってその後、4月8日にも再度、雪が降ったそうだが、私はまだ生まれ故郷の北海道で学生生活を過ごしていたので知らなくて当然だろう。そこで更に資料を基に振り返ると時代は昭和末期のバブルの頃。今とは世の中の雰囲気もまったく違っていたようだ。中央競馬に関して言えば、この年から関西馬の勝ち鞍が関東馬を上回ってそれが平成から更に令和まで続く、西高東低時代の始まりだったという。個人の記録で言えばこの年の菊花賞で武豊騎手がスーパークリークに騎乗し、初のGⅠ制覇。まさに生きるレジェンドの伝説のスタートでもあったのだ。そして豊騎手にも関連するオグリキャップが中央に移籍してきたのもこの年でこれは私も知っている競馬ブームを象徴する存在でもあった。一方では前年のクラシック2冠馬のサクラスターオーが治療の甲斐なく死亡したのもこの年だった。

 いつの日にかは太陽が燃え尽きるか、膨張するかで地球の寿命も尽きるのだろう。そうなれば当然、人類滅亡という日も来るのかもしれない。それでも私は科学や医学の専門家でもないが、今回のコロナウイルスが原因でそういうことになるとは思わない。全体に免疫ができるのか効果的なワクチンが開発されるかどちらかが実現してこの騒動も終息に向かうのだろう。そこまではもっと悲しいことも苦しいこともあるかもしれない。ここまで起きてしまったことは取り戻せないし、以前の生活にもどることもないだろう。それでも32年前の春に遅い雪が降った時のように競馬の世界でもこれまでに考えもしなかった新しい局面が訪れてひとつの時代が始まるような気がする。無観客競馬で多くの人達が見ることができないものを見せて貰えることに感謝してここで起きたことを記憶に留め、記録として残していくことが今の自分にできるせめてものことだと思っている。
 
美浦編集局 田村明宏

田村明宏 (厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
冬場の暖冬に比べて春の到来が遅いようにも感じる美浦だが、オールシーズン、半袖で過ごし、寒さ知らずなのは江田照騎手。48歳で騎手の中ではベテランだが、いつも元気一杯だ。今週の注目は同騎手が跨り日曜12Rを予定しているペイシャムートン。前走は新馬戦以来の久々の勝利だったが、初騎乗で癖を掴んで能力を発揮させた。「まだ手前を替えなかったりで粗削りな走りですが、良化余地は十分です」と厩舎サイド。昇級だが、穴で一考の余地。