敗れてなお爽やか(田村明宏)

 早い段階から出走意思がないことが分かっていたアーモンドアイが宝塚記念のファン投票1位に選ばれた。2位のレイデオロとの差は僅かだったが、おそらく2頭の対決を期待していた人々の希望を表したものだろう。いつもならレース後にすぐに放牧に出される予定が延びているのは軽い外傷があったからで次走とは無関係。だが、安田記念で久々の敗戦を喫したのは残念でならない。

 波乱続きだった春の東京GⅠ5連戦。無敗の皐月賞馬が敗れたダービーもそうだが、世界のアーモンドアイまで負けてしまい、何かスッキリしないまま終わってしまった。既に多くのファンもご存知だろうが、スタート直後に外から寄られる不利があって位置取りが悪くなり、直線に向くまでほとんど身動きができない状況に。この春はずっと言われ続けてきたことだが、東京芝コースは異常なほどの超高速設定。絶望的なポジションになりながら残り1Fくらいで前が開いてからは一頭だけ違う伸びで何とか間に合ったかと思ったところがゴールという不運。負けて強しとはよく言われることだが、これまでのアーモンドアイには相応しくない結末だったと思う。今回の臨戦に際しても距離不足や遠征帰りを懸念する声があったが、あれだけ強かった桜花賞馬に対して距離が短いとかは見当違いだし、デビュー以来、最高馬体重の馬体もあの落ち着き払った所作を見れば仕上がりには何の疑いも持たなかった。だからこそあの不利がなければと悔しい気持ちが晴れなかったのだが。

 翌週、国枝厩舎を訪れ、担当の根岸助手に思いを伝えてみた。「僕も負けたのは残念ですが、仕方ないです。これも競馬ですから。でも、彼女は更に強くなっていましたよ。あの馬体だって調整過程はほぼ同じなのにジャパンカップの時に比べて増えていましたからね。あれは馬が走る距離を分かっていて自分で体を造ったんでしょう。マイル仕様の体に。だから秋にはまた違った姿を見せてくれると思います。期待して下さい」とのこと。まったく悲観的な見方はなかったし、むしろ清清しさを感じるほどだった。僅かばかりの賭け金を失っていつまでも悔やんでいるのは私だけかもしれない。まだ、確定はしてないが、秋の天皇賞でこれも海外GⅠ勝ち馬になったウインブライトとの対決を今から楽しみにしたい。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
アーモンドアイの父にあたるロードカナロアは安田記念も勝ったが、本領を発揮したのはスプリント路線。今週から開幕の函館競馬では父の良さを受け継いだダノンスマッシュが函館スプリントSに挑戦。秋に弾みをつけるためにもここは負けられないところだ。