終わり良ければ(田村明宏)

 2019年4月30日、関東地方はその日、朝からずっと雨が降り続いていた。ひとつの時代の終わりを惜しむかのように。このコラムでも何度か書かせて貰ったが、平成が終わって令和という新時代へ。様々な場面で取り上げられている平成を振り返る企画。弊誌でも平成のベストレースという形で掲載されたが、中央競馬に限って言えば、平成時代では武豊騎手の存在の大きさを改めて感じずにいられない。そもそもデビューは昭和末期。だが、平成最初のGⅠ桜花賞をシャダイカグラで制して最後の年の初のGⅠフェブラリーSをインティで勝ったように常に第一線で活躍し続けた。スポーツ全般で言えば先日、引退した野球のイチローが印象に残るが、それでも実働28年間。分野が違うとはいえやはりレジェンドと言うのにふさわしいだろう。個人的な感想で言えばイチローの45歳に比べて豊騎手の50歳は何と若いことか。

 平成最後のGⅠが天皇賞だったのは偶然だが、競馬関係者にとっては幸運なこと。しかも勝ったフィエールマンは私が懇意にさせてもらっている手塚厩舎の所属馬。昨年の菊花賞の時点ではその素質を見抜くことができなかったが、中間の充実振りと師の自信に満ちたコメントを聞けばもう迷うことはなかった。距離不安もなんのその。ディープインパクト産駒としては初めて春の天皇賞勝ち馬に。久々を気にすることなどもう愚問。むしろ最少キャリアで勝ったことで今後に大きな伸びしろを感じさせてくれる内容だった。だが、振り返れば年が明けてからの手塚厩舎は初勝利が4月6日のマイネルファンロンだったように極度の不振に陥っていた。いつもは前向きな師もさすがに苦悶の色を浮かべていたし、取材者としても対応が難しかった。これからはいつも通りのコメントが聞けそうだ。良かった。

 それからおおよそ2時間後、香港で行われたクイーンエリザベスⅡ世Cを日本のウインブライトが勝った。3頭出走していた日本馬の中では国内のGⅠ未勝利ということもあって一番の低評価。だが、こちらも鞍上の松岡騎手がデビュー当初から大きな期待を寄せていた馬で今年に入っての充実度は感じていたし、成長力のあるステイゴールド産駒。出負けしたのは誤算だったが、内枠を生かしてうまくリカバリー。能力を信頼しているからこそできる騎乗だったと思う。彼にとっては天皇賞のマイネルキッツ以来、10年ぶりのGⅠ勝ち。翌年には年間100勝を達成して毎年、リーディングの上位を争っていた時期でもあった。その後は大きな怪我があったり、エージェントの変更があったりで紆余曲折があり、順風満帆とは行かなかった。この数年は毎週のように騎乗馬の感触を聞いていたが、秘めた熱い思いは伝わってきた。今年も金杯をウインブライトで勝ちながら骨折のアクシデント。中山記念の同馬の出走に合わせて復帰してきた経緯があった。

 タイトルの終わり良ければに続くのはすべて良しという古くからあることわざだが、シェークスピアの作品のタイトルにも使われている。私も詳しくはないが、一般的な悲劇や喜劇とは違う問題劇というジャンルに分類されるものらしい。物語としては筋が通らなかったり、感動的な話でもないが、最後は良かったという結末を迎える。だが、競馬の世界もそうだが、現実に起こるできごとは特に意味がなかったり、理由もなく結果が出てくるもの。平成の終わりに行われたふたつのGⅠレースは私にとって最後は良かったと思えるもので今はただ、その喜びに浸っていたい。

美浦編集局 田村明宏

田村明宏(厩舎取材担当)
昭和46年6月28日生 北海道出身 O型
令和最初のダービーは皐月賞組が主力になりそうだが、まだ今週のレースで最終便がある。土曜メインのプリンシパルSに出走するシークレットランに注目。葉牡丹賞レコード勝ちのあとは期待を裏切っているが、フットワークからは広い東京向き。何とか間に合わせたい。