双つの耳(宇土秀顕)

 それが〝必然〟であることを論理立てて説明できないのだけれど、だからといって〝偶然〟とも思えない……。時たま、そんな現象や出来事に出遭うことがあります。

 ご存じのように、昨年の3歳世代はホープフルSがGⅠに格上げされた最初の世代。2歳王者決定戦が東西統一された1991年以降、約四半世紀にわたって続いたピラミダルなレース体系が崩れ、2歳牡馬戦線はふたつのピークを持つ双耳峰の様相を呈すことになりました。1990年以前も、現在のように東西それぞれのピークがあったことを思えば、この改革、ある意味で〝原点回帰〟に近いものだったと捉えていいのかもしれません。

 それはさておき、双耳峰になってみると、気になるのは果たしてどちらの耳が……、いや、どちらのピークが高いのかということです。前身のラジオたんぱ杯やラジオNIKKEI杯当時も含めた過去の歴史を振り返ると、少なくとも、〝翌春のクラシック戦線に、より密接な関係になるのは距離2000mのホープフルSの方ではないか〟そう予測した人も少なくないと思います。実際、昇格直前のホープフルS優勝馬レイデオロは日本ダービー馬に輝きました。

 ところが蓋を開けてみると、昇格元年のホープフルS組は大苦戦を強いられました。栄えある初代優勝馬のタイムフライヤーはその後、7戦して勝ち星を挙げられずにクラシック三冠も⑩⑪⑥着。2着ジャンダルムと4着サンリヴァルもその後は未勝利。また、5着ナスノシンフォニーはホープフルSを最後に実戦から遠ざかっており、昇格元年のホープフルSで掲示板にあがった5頭のうち、その後に重賞を勝ったのは3着のステイフーリッシュ(京都新聞杯)1頭だけというのが、ここまでの成績です。

 一方、朝日杯FS組の方はどうかというと、こちらはGI勝ちを飾った2頭を含め、上位5頭のすべてがその後に重賞に優勝。しかも4頭までは春のGⅠ戦線において、その存在をアピールするという活躍ぶりでした。

 それぞれのレースの上位5頭を対象に、その後の重賞勝ちを列挙してみると……。

【ホープフルS組】
①着タイムフライヤー  
②着ジャンダルム    
③着ステイフーリッシュ 京都新聞杯
④着サンリヴァル    
⑤着ナスノシンフォニー 

【朝日杯FS組】
①着ダノンプレミアム  弥生賞、金鯱賞
②着ステルヴィオ    スプリングS、マイルCS
③着タワーオブロンドン アーリントンC
④着ケイアイノーテック NHKマイルC
⑤着ダノンスマッシュ  京阪杯、シルクロードS

 上記の通り、両者の成績には歴然と差があります。ちなみに、前述の統一元年(1991年)まで遡っても、朝日杯FS(旧朝日杯3歳S)の上位5頭がすべて、翌年に重賞勝ちを飾ったというケースは他にないのですから、やはり昨年は〝特別な年〟だったと言えるでしょう。

 既存の王者決定戦である朝日杯FSが新たな王者決定戦が誕生したことで奮起した、そんなことを書いたら笑われてしまうでしょうか……。おそらく、2017年の朝日杯FSにたまたま素質馬が集結しただけのことなのだと思います。ただ、それでもなんとなく、〝これは偶然なのだろうか?〟そんな思いが残った昨年のクラシックでした。

 先週の桜花賞では朝日杯FS3着のグランアレグリアが優勝しました。昨年同様、今年のクラシック戦線でも朝日杯FSが一歩先んじる形となりましたが、注目はやはり、2頭の2歳王者が激突する今週の皐月賞でしょう。ホープフルS優勝のサートゥルナーリアは同レースからのブッツケで、一方、朝日杯FSの優勝馬アドマイヤマーズは共同通信杯(2着)をひと叩きしての臨戦となります。はたして結果はどうなるのか、そして、この〝双つの耳〟は、これからどのような関係を保っていくことになるのでしょうか……。

美浦編集局 宇土秀顕

宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。
昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。下界に何も置いてこない、だけど、山に何も持ち込まない……。人生の先輩方の、そんな山歩きに触れることができたこの春でした。