自分と向き合う(山田理子)

 昨年9月に20年以上ぶりにスポーツジムに入会した。もともと運動が好きでバドミントンチームに所属しており、たまに公式試合にも出るが(団体戦の捨て駒ですが……)、自身で完結するトレーニングはまた違う面白みと発見がある。何でも試したいので、筋トレ、ウォーキングやエアロバイクの有酸素運動、水泳をベースに、ヨガ、エアロビクス、ストレッチ、カキラ、ズンバなどのスタジオ系にも積極的に参加。まず、ヨガのゆったりまったりとした時間の流れにショックを受けている。もう何年も早朝からせわしなく活動しているので、「無」になれないし「脱力」できない。深い呼吸もまったく身につかない。馬券の収支でJRAと、予想ランキングで同業者と争い、休日には相手の逆逆をついてシャトルを打つ競技に熱中してきた身に、講師の「無理のないように。決して人と争うことのないように」はズトンと響き、いたく癒された。とりわけはフィットネスプログラムのズンバ(ZUMBA)はフリーダム! コロンビアのダンサー兼振り付け師のアルベルト・”ベト”・ペレスによって創作され、2001年米国で誕生したものだが、音楽を楽しみ、体を動かすのがコンセプトなので、エアロビクスと違い、インストラクターによるステップの解説は一切なし。教えを請わず生徒は見よう見まねで踊り、回を重ねて体得していく。子供が「おかあさんといっしょ」を見ながらリズムを取るようなものか。正しいとか間違ってるは問題ではなく、(主に)ラテンミュージックでノリノリで動けばOKと解釈。もうひとりの自分が恥ずかしい……と俯瞰するが、2回目は何でもいっか~、やりたいように~気持ちが変化して、こんな人間だったっけと意外なほど心地いい。

 話は変わるが、最近「食べたいものを食べるダイエット」を知った。食べたいときに、本当に食べたいものをピンポイントでいただく方法。ケーキやチョコ、ドーナッツなど小麦粉と油と砂糖の塊は罪悪感でしかなく、できる限りヘルシーな代用品ですませたいが、これだと満足感がなく過食につながる恐れがある。その時々で何を食べたいか吟味して正確なチョイスをすることが肝要だという。ズンバといい、このダイエット法といい、~であるべき、~をしなければならないから解放された気持ちになる。

 ふと気づく。馬券購入も知らず知らずに不自由になっているのではないか。今回危ないと思いつつ、オッズの被る人気馬が気になって一応押さえてしまう……、今回いいと思いつつ、あまりに配当がつくので心配になって賭ける金額を減らしてしまう……などなど。ヨガのインストラクターの「自分の内側と向き合って」というフレーズを聴きながら、週末の発売締め切りギリギリ1分前のせめぎあいを思い起こし、果たして自分は自分の内側と向き合っているかを自答する。あと1点、どれを足すかどれを切るか。情報過多の時代にあって、周りにも影響されずに、自分自身でジャッジできているだろうか……と。

 自分で模索し、自分と向き合う、競馬も同じだなあ。まあ、こんなことを考えているから「無」になれないわけなんです。

栗東編集局 山田理子

山田理子(調教・編集担当)
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。