数字に表れない根拠(山田理子)

 若い頃、「競馬は楽しいけどお金が続かないのでは。競馬をしてお金を得られるようになりたい」と思ったのが、この業界に入った理由。いつのときも感動は「馬」と「それに関わる人々」はダイレクトに与えてくれるもの。だから私自身、読者の方に対して、魅力をうまく伝えたい云々より、長く競馬のドラマを見続けるための資金稼ぎの一助になりたい気持ちが強い。1000円でもいいからプラスに。行きより帰りにお財布が膨らむように。その一心で馬を見て、レースを見て、日々の業務に取り組んでいる。たとえば競馬場で年季の入ったおじさんに「3―5―12」と書いた紙を渡され、その通りに買って万馬券が当たればラッキーだが、お金を使い果たしたあとには何も残らない。おじさんはいつもそばにいないし、いつも当たるはずもない。ならば、「3―5―12」という結論に至った経緯を教えてほしいとは思わないか。そっちのほうが馬券ライフにウンと役に立つ。予想も同じ。印の理由を説明することこそに意義があると考える。

 前置きが長くなったが、私は予想をするうえで、この夏、走破タイムの比較から解放される経験をしたので、馬券検討のツールとして、覚え書きするとともにアウトプットしてみたい。対象レースは障害競走。「障害戦は時計じゃない。内容だ」と常日頃、ジョッキーたちが口にするのが、どんぴしゃ当てはまる事例が3つあり、今後に生かさねばと強く思った。

 まず4月28日の新潟未勝利・勝ち馬マテンロウハピネス(3分10秒9)と4月29日の新潟未勝利・勝ち馬ジャズファンク(3分07秒6)。走破タイムが3秒以上違い、上がりも断然ジャズファンクが速かったが、2頭は6月2日の東京オープンで対戦して熾烈なマッチレースとなり、マテンロウハピネスがクビ差抑えて勝利。

 次に8月5日の小倉未勝利・2着メイショウタンヅツ(3分13秒7)と8月12日の小倉未勝利戦・レコードの2着ハルキストン(3分07秒6)。走破タイムは6秒も違ったが、2頭は次走8月26日の小倉未勝利で大接戦。ハルキストンが何とかクビ差抑えて勝利。

 そしてそのハルキストン(3分10秒4)と8月5日の小倉未勝利・勝ち馬ラヴアンドポップ(3分13秒6)。2頭は次走で9月15日の阪神ジャンプS(GⅢ)に挑み、ラヴアンドポップがアップトゥデイトを相手にアワヤの場面を作って2着。3着以下を大差離した。ハルキストンは勝ち馬から5秒離された7着。  ※走破時計はすべて良馬場

 阪神ジャンプSの戦前、ラヴアンドポップの取材で実は高田騎手はメイショウタンヅツとハルキストンの例を挙げて「障害は時計が速いかどうかが重要ではない、内容が重要だ」ということを記者に懇々と説明している。「ラヴアンドポップは余裕のあるいい勝ち方だった。流れに乗って、脚を使ったのは最後だけ。それで勝てた。あのレースができれば、気持ちの面でも凄くいい感じで次に向かえる。これが大事なこと」と。ラヴアンドポップの未勝利勝ちは、相手に合わせたレースだったので時計は平凡だし、着差も小さい。けれどよくよく見返すと、ゴール際にも確かに余力がある。最終障害を飛んでから前を交わし、最後は鞍上が手綱を抑える仕草。お釣りを残しての勝ち方だった。

 馬は生き物。記録した数字を評価するのはもちろん重要だが、心身の両面で果たして次も同等の記録を出せる状態にあるのか吟味する作業を忘れてはならない。暑い時季、タフな障害戦ではなおさらだろう。

 若手ジョッキーの参入がなく存続が危ぶまれるが、一方で入障する馬のレベル、キャリアを積んだ中堅、ベテランジョッキーの技術は確実に上がり、今、障害競走は非常に奥深い。取材で得る情報は毎度毎度こちらの想像を上回り、些細な会話の中にもはっとさせられることが多い。競馬記者として過不足なく正確に発信し、読者の方々ともに馬券の腕を上げていきたいと切に思う今日この頃。ツイッター(@rikobook)でも発信してますので、そちらもよろしくお願いします。

栗東編集局 山田理子

山田理子(調教・編集担当)
昭和46年6月22日生 愛知県出身 B型
水、木曜のトレセンではCWをお手伝いしながら障害コース、Bコースを採時。日曜は隔週で坂路小屋へ。調教時間が何より楽しく、予想で最重要視するのは数字よりも生身の馬の比較。人気薄の狙い馬、危ない人気馬を常に探している。09年より関西障害本紙を担当。週刊誌では15年より新たに「注目新馬紹介」のまとめ役を引き継ぎ、新馬の観察に一層力が入っている。