夏休みの思い出、の先に…(キッズチャレンジレポート)(和田章郎)

 各競馬場やウインズ等で、ファンイベントが行われているのは皆さんご存じの通り。馬とのふれあいイベントなんかも、さかんに行われています。
 競馬場もウインズも、一般のファンに広く開かれた〝会場〟としての機能性が高いですから、イメージ戦略の効果も絶大かと思いますが、通常一般のファンには開放されていない施設である美浦、栗東のトレーニングセンターでも、様々なイベントが、裏方(?)ならではの独自の形で行われていて、ここでは美浦の方で8月15日に行われたイベントについて、フォトレポートの態を取りつつ紹介させていただきます。

 タイトルがこちら。
 〝夏休みキッズチャレンジ!馬のお仕事を体験してみよう〟

 JRA広報部からの印刷物を見てビックリし、ホームページで詳細を確認すると「厩舎作業を体験」云々とあるので2度ビックリ。
 トレセンでの馬とのふれあい系イベントとしては、毎月行われている「ウマシタ(ファミリーで馬に親しむ日)」があるのは知っていましたが、「こういうのがあったとは…」と軽くショックを受けつつトレセン事務所で久保総務課長に伺ったところ、「昨年からなんですよ」とのことで、ずっと前からやっていたわけではないそうです。若干気が楽になったところで、その場で帯同させてもらうことをお願いして当日朝を迎えました。

 集合は8時40分にトレセン脇の広報会館。参加者18名(募集20名で2名キャンセル)と親御さんの計40名が揃ったところで、まずはJRA職員さんによる本日のタイムスケジュールと注意事項の確認を。
広報会館での説明

 参加者は小学生から中学生。18人が3班に分けられ、斎藤誠、鈴木伸尋、大竹正博の各厩舎に移動して〝厩舎体験〟スタート。

 大竹厩舎1
(こちらは大竹厩舎の洗い場での草やり)

 

大竹厩舎2
(馬房内での寝わら上げ体験を見守る)

 

鈴木伸厩舎1
(鈴木伸厩舎でカイバ調整?の説明を受ける)

 この間、子供達だけでなく付き添いのお父さんお母さん達まで目を輝かせてスタッフに質問。予定の時間をオーバーしてるんじゃないか?と思いながらでしたが、ここまででもう十分にこのイベントの〝狙い〟というか、企画された〝意図〟のようなものがわかってきたのです。

 参加者とのやりとりがひと段落ついた鈴木伸師に伺いました。
 「身近にはいない馬に触れてもらって、まず親しんでもらう。そこから徐々にでも馬の世界を知ってもらえればいいですよね。それで、もしかしたらこの仕事に興味を持ってくれて、将来的な進路として考える子供さんが出てくるかもしれない。勿論、たった一日だけでそこまで期待するのは無理がありますけど、とにかくまずは馬を身近な存在として感じてもらう。そこからスタートしないと」

 いわゆる〝社会科見学ツアー〟と呼ばれるものは、工場等の製造業に限らず、農業でも漁業でも、それこそ活字媒体の新聞社や出版社等でも行われます。それらは企業の何かしら(イメージ戦略とか社会的貢献といった)アピールだけでなく、少子化が進む現在、もっと端的に将来的な人材確保の狙いもあるのだと思われますが、「夏休みキッズチャレンジ!」も、それらと根が同じなのだろうということ。遠い将来を見据えて、永続的な競馬の発展、それを担う人材確保、環境づくり、といった取り組みの一環なのでしょう。

 さて、キッズチャレンジのスケジュールに戻ります。

診療所
 トレセンの厩舎エリアを出て、道路を挟んだ向かいに乗馬苑があります。そこでまずポニーリンクで乗馬体験。その後、厩舎脇の施設で装蹄作業の見学があり、その隣の診療施設では実際に聴診器をあてて、馬体を触りながら心音を確かめる検診作業を体験します。写真は作業前の注意点を聞いているところですが、さすがにみんな真剣そのもの。ここでも親御さん達、明らかに自分もやってみたい感が満載でした。NGなのを承知で、ですよ。わかりますよ気持ちは。取材してる自分もそうなのですから。

坂路
 それから坂路コースへ移動。こちらでは親御さんも参加(?)可能でして、開放された馬場に入るやいなや、いてもたってもいられなかったのでしょう。子供さんと一緒に走る姿が見られました。さすがにこちらの方は、自分も、とは思いませんでしたが。

 そして、イベントの最後は「ジョッキーとのふれあい」イベント。それこそ親御さん達お待ちかね(?)だったかもしれません。

 調整ルームの一室に招かれて、まずジョッキーと子供達がコの字型に並んで座り、近くで対面するような格好での座談会。職員さんから簡単な騎手の世界の説明の後、質疑応答が交わされました。その後、テーブルに席を移して、軽い食事を取りながらの歓談。
 その最中に、大きな鏡の前に置かれた木馬でジョッキー達の実演、レクチャー後に子供達が木馬を体験しました。
調整ルーム木馬1
 こちらは木馬に跨る伊藤工騎手と、追う姿勢について解説する西田騎手(聞く方も真剣なら、乗っている方も鏡をチェックしながらの本気モード)。

調整ルーム木馬2
 こちらはオマケと言ってはなんですが、この福島、新潟で大活躍の3人。乗っているのは山田敬騎手で、背中左はメドウラークで七夕賞を制した丸田騎手、背中右は先週、JRA女性騎手の最多勝記録を更新した藤田菜騎手です。

 テーブル毎の木馬体験は、それぞれのジョッキー達の指導に熱が入っていて、子供さん達も最初思うようにいかなかったのが、リズムが取れたりすると笑顔が弾けます。それに見とれていると、予定の終了時間はやっぱりオーバーすることに。
 そうこうしている間、木馬体験を終えた参加者は、自分のテーブルは勿論、席を移動しながらジョッキー達からサインをもらい、JRAからも手土産が。
 お名前は確認できませんでしたが、参加したひとりのお母さん。
 「こんなにしてもらえるなんて…」
 と紅潮した表情で漏らしていました。

そしてすべてのメニューが終わって、最後の最後に行われた記念撮影。
調整ルーム集合写真

 〝夏休みキッズチャレンジ!馬のお仕事を体験してみよう〟
 これ、夏休みの宿題にあるような〝自由研究〟にもってこいでしょうし、JRAが催す〝親子で楽しめるイベント〟としても群を抜いたコンテンツと言えます。受け入れる関係者の負担が小さくはないでしょうから、「ウマシタ」みたいに毎月は無理にしても、もっと機会があればなあ、と単純に思って前述の久保課長に振ってみると、「放牧とか北海道に出張しているとかで、馬房に開きがある夏場でないと厳しいんです」と。
 なるほど…本当にノーテンキな単純さでした。申し訳ございません。

 最後にもうひとつ。さきほどの鈴木伸師の話のところで触れた〝将来的な人材確保〟という件にちなんだエピソードを。
38期生?
 こちらの女の子、木馬に跨って姿勢を取った時、レクチャー役をしていた村田騎手とそばにいた西田騎手が、目が点になった、とは言いませんが、キョトンとして言葉が出ず、JRA職員さんの説明を聞いて、「なぁんだ~、だよね~、ビックリしたよ」といったやりとりがあったことを付して、写真だけ掲載しておきましょう(順調に進んで欲しいです)。
 他にも、実際に獣医志望の男の子がいて、お母さんともどもひとつひとつの体験メニューを熱心にこなしていました。今回の体験でより馬に興味を持ってくれればと節に願います。また、たとえ参加した本人でなくとも、この経験を友達に話したりすることで、それこそ裾野の広がりにつながることになるかもしれません。

 全行程が朝8時過ぎから午後の14時近くまで。午前中の炎天下での取材は少々オヤジにはきつかったのですが、元気な子供達の「夏休みの思い出」の先に、競馬の新しい時代への希望が見えたような気がして、心地よい疲労感に満たされた一日でございました。
 改めまして参加した皆さんは勿論、厩舎関係者の皆さん、JRA美浦トレーニングセンターの職員の皆さん、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。究極のエンターテインメントである競馬を真に理解するには、森羅万象あらゆることに造詣を深めなくてはならない、がモットー。なかなか夏競馬の苦戦を抜け出せず、秋の巻き返しを期しているところです。