映像との付き合い方が……(吉田幹太)

毎年、ルールが少しずつ変わるプロ野球。例年ならちょっとしたことだったりするけれど、今年は大きなルール変更がふたつあった。ピッチャーの投球がなくてもフォアボールが可能になる申告敬遠制度とビデオでの判定を要求できるリクエスト制度。

申告敬遠制度は監督がベンチから出てきて、審判に告げれば敬遠が成立するルール。これ自体が勝敗に影響する可能性は少ないだろうけど、あっという間に話が湧いて出て、あっという間に決まったことにはちょっと違和感を感じてしまう。少なくとも自分は現場で観ている時も、テレビで観戦している時にも、敬遠が退屈で無駄な作業だとは一度も思ったことはなかった。

もうひとつはメジャーのチャレンジとほぼ同じリクエスト制度。こちらは導入するのが遅過ぎたような気がしてならない。試合の最中で再三リプレイされる映像は勿論だが、試合終了後でもネットの動画サイトに同じ映像がアップされて、いつでも、どこでも、何度でもお客さんが映像を確認することができる時代。ハッキリ誤審だったようにしか思えないプレーをそのままにして進行すること事態に無理があったような気がする。勝敗に影響があれば勿論、仮に勝敗には直接関係しなくとも釈然としないのは当然だろう。時間短縮の影響はよく分からないけれども、少なくともお客さんが納得できるこのルールはいいことだと思う。

映像に関して言えば、競馬の場合は野球の10年は先を行っているのではないだろうか。裁決委員が判定を下すのにパトロールビデオを使うのは勿論だが、今では一般のお客さんまでもがすぐに見られるのが当たり前になっている。

公営ギャンブルであることが、進歩の大きな要因だろう。それでも今ではレースの映像だけではなく、調教の映像も一般に公開されている。GIレースはほぼ全馬、他の重賞でも9割の馬が映像で見ることができる。ギャンブル的な面だけではなく、楽しみ方の幅が広がっているのかもしれない。

自分が入社した約30年前は、午前中のレースを事務所で見る手段はまったくなかった。ラジオの前に数人が集まって、きれいに聞こえなかったりする実況を息を潜めながら聞くのが常で、レースが終わってからもどう決まったのかよく分からないことなどしょっちゅうあった。結局、仕事をしながらでは配当を発表するタイミングで聞けないこともあり、仕方なく電話での音声サービスで着順や払戻金を確認していたような記憶がある。

今は当然のようにグリーンチャンネルで全レースをリアルタイムで見ることができて、ホームページでも数分後にはワンクリックで見ることができる。往時が考えられないほど不便だったのは間違いなく、逆に言えば、それだけめまぐるしく進歩して、サービスが大幅に向上したと言えるのではないだろうか。

現時点では映像で伝えられていないものでも、今後は当たり前のように映像で伝えるようになる時代が来るのかもしれない。映像でしかできない情報。その伝え方も今後はいろいろ模索されて、馬券を検討する材料はますます増えて行きそうだ。

また、我々新聞製作の段階で言えば、調教時計を採る際に固定カメラでゴール前などを撮影しながら、目視で判断したものと照合して、その精度をあげて行くのが当たり前の時代になってきた。

曖昧さが許された頃はそれはそれなりに良さがあって、決して悪い時代ではなかったと思う。しかし、これだけ映像技術が発達して、正解により近いものが確認できるようになってくるともう昔には戻れない。

自分の頭も少しずつ書き直して、いいものはしっかり吸収できるように変えていかなければならない。おそらく、曖昧さが面白さのひとつである野球においても、この大きな波にはあらがえないのではないだろうか。今後、いかに対応していくのかが問われているのだろうと思う。

とはいえ、ラフプレイは駄目だとしても、競馬にせよ野球にせようまく、ずるくだますようなプレーをする選手や騎手の方が好みではある。ひょっとするとその映像を使って、うまく魅せてくれる選手や騎手が現れる可能性もあるだろうか。

とにもかくにも、今の競馬に対応してしっかり稼ぎ、仕事のオフにはゆったりとした気分で野球を楽しく見れるようなシーズンにしたいものです。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。