風信子のその後(宇土秀顕)

〝風信子〟と書いてヒヤシンス。
このコラムでヒヤシンスSの話題を取り上げたのは5年前の2013年のことでした。
ちなみに、その2013年の優勝馬はチャーリーブレイヴ。その後、同馬はオープン特別を1勝したにとどまりましたが、そのチャーリーブレイヴに代わって大成したのが3着のコパノリッキーでした。GⅠ・JpnⅠに計11勝という現役時の活躍、そして、あの夕映えの引退式は記憶に新しいところです。
また、コパノリッキーと同様に2017年の暮れを大いに賑わしたアップトゥデイトがこの時の10着馬、更には、2着のソロルものちに小倉サマーJの優勝馬に名を連ねることになります。いま思えば、2013年のヒヤシンスSは本当に多彩な顔ぶれでした。

ところで当時、ヒヤシンスSの話題をこのコラムで取り上げたのは、同レースの日程が5年ぶりにフェブラリーS当日に戻されたからでした。
改めて振り返ると、最初にヒヤシンスSがGⅠのフェブラリーS当日に施行される3歳のオープンとして定着したのは、2000年から2008年までの間。〝ダート頂上決戦を控えた張り詰めた空気の中、その頂上決戦とまったく同じ舞台で次代のダート王候補が覇を競う……〟 8年の歳月をかけて、ヒヤシンスSはそんなレースとして定着していたのです。
ところがその後、ヒヤシンスSはフェブラリーSの前週、あるいは前日施行へと日程が変更されました。この日程変更により、〝今〟と〝未来〟をつなぐという趣が失われかけていたところで、2013年に同日施行が復活したのです。翌2014年、そのヒヤシンスSは一旦フェブラリーS前日に戻されましたが、2015年にはまた同日施行に変更。そして、現在に至っています。

こうして再びフェブラリーSと同日施行に戻ったヒヤシンスSですが、2015年以降の3年間を振り返ると、単に〝旧に復した〟というだけでなく、そこには確実に〝新たな時代の息吹〟というものが感じられます。

まず、2015年。この年の優勝馬ゴールデンバローズは、そのひと月後にドバイへと遠征してUAEダービーで3着に健闘してみせました。また、4着のディアドムスと6着のタップザットもUAEダービーに参戦して、それぞれ8、5着の成績を残しています。

翌2016年の優勝馬はゴールドドリームでした。こちらは、昨年のフェブラリーSとチャンピオンズCを制して最優秀ダートホースに選出。また、4着のケイティブレイブもJpnⅠの帝王賞や川崎記念をはじめ交流重賞に計6勝と活躍し、今週のフェブラリーSには2頭揃って有力候補として臨みます。
しかし、それだけではありません。この年の5着馬ラニはUAEダービー制覇という快挙を成し遂げ、更には、米三冠競走にも挑戦してベルモントSで3着という成績を残してみせたのです。

そして、昨年の優勝馬エピカリス。これもやはりドバイへと飛び、UAEダービーでは2着に大健闘。ゴール寸前で僅かに交わされたものの、逃げ切りまであと一歩という大パフォーマンスを演じてみせました。また、ヒヤシンスS2着のアディラートも結果こそ残せませんでしたが、やはりUAEダービーに挑戦しています。

国内で活躍を続けてきたゴールドドリームやケイティブレイブもさることながら、このように、近年のヒヤシンスSは海外へと挑むためのステップという性格が着実に強まってきました。そして、そんな気運に共鳴するかのように、昨年からはケンタッキーダービーへと繋がるJAPAN ROAD TO THE KENTUCKY DERBYの核を成すレースに指定されています。
「一年後に同じ東京マイルで……」そんな趣を残しながらも、新たな役割を担うようになってきたヒヤシンスS。冒頭で紹介したように、ヒヤシンスには〝風信子〟という和名があります。当時のコラムで「戴冠の日を信じて風のように駆け続ける若者のよう」と書きましたが、そのヒヤシンスにはもうひとつ、〝飛信子〟の漢字が当てられることもあるとのこと。こちらの和名には、「己の力を信じて海外へ雄飛する」そんな、気概に溢れる若駒の姿が重なります。

勿論、先鞭をつけたフラムドパシオン(2006年にヒヤシンスS優勝→UAEダービー3着)の存在も忘れることはできませんが、いずれにしても春を待つ東京に大きく花が開き始めたヒヤシンスS。このあとに待つ国際舞台へ向け、そして、〝一年後の東京マイル〟に向けて、今年はどんな馬が躍り出るのでしょうか……。

美浦編集局 宇土秀顕

宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。昭和61年入社。内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。
休日の月曜日だっただけに、先月の雪かきではご近所さんに貢献。皆が無事に出勤できるよう早朝からひと汗かきました。田んぼに囲まれている我が家の周囲はまるで雪原。日の出を迎えると、白い雪煙の向こうからオレンジ色の光が射し込み、それは幻想的な光景でした。雪かきの大きなご褒美。しかし翌日、腕が筋肉痛になったことは言うまでもありません。