有馬記念を振り返る(青木行雄)

 キタサンブラックが引退の花道を飾り、レース翌日のスポーツ紙も珍しく1面で取り扱われた有馬記念。予想、馬券ともに外してしまったので、自分的には、めでたしめでたしという感じでもなかったが、ここでは予想の根拠、レースを見ての印象を振り返ってみたい。

 グリーンチャンネルのトーク番組で北島三郎さんが出演していた時、「有馬記念は思い入れの強いタイトルで何としても獲りたい」と語っていた。昨年、既に勝利したジャパンCはそれほどこだわっていないということだったので、ジャパンCは本命にせず、有馬記念で勝負! というのは結構、早くから決めていたつもり。それなのに…。

 1週前の追い切り映像でキタサンは速い時計こそ出せていたものの、動き自体の迫力がひと息に感じた。対してスワーヴリチャードは春に見せていた口向きの悪さがなく、手前の替え方もスムーズ。ゴール前の伸びは素晴らしく、この段階で考えが揺らいでしまった。

 そして当週。今回は土曜にも時計を出していたキタサンは上がり重点。動き自体は可もなく不可もなくといったところ。スワーヴはここも意欲的に追われ、再び素晴らしい動きを披露。前走でジャパンCを勝利したシュヴァルグランも勢いを感じさせる攻め気配。この時点で大体◎スワーヴ、○シュヴァル、▲キタサンという印が固まった。

 で、木曜の公開枠順抽選へ。ご承知の通り、武豊騎手が神がかった引きの強さを見せてキタサンが2番枠をゲット。対抗のシュヴァルは真ん中だからまだしも、本命のスワーヴは外へ。嫌だなあとは思いつつも、印の変更はしないでおいた。

 有馬記念当日は、いつものようにラジオ出演。まずは馬体重の発表。二桁増減の馬が4頭いたが、印を打っていたミッキークイーンは善戦した昨年の有馬記念とほぼ同じ数字なので問題なし。スワーヴも8キロ増えていたが、太目感はまったくなし。実が入って充実していた印象を受けた。断然の1番人気のキタサン。稽古のやり過ぎで疲れていないかというのを最も不安視していたのだが、程よく気合が乗って雰囲気はとてもいい。この時点でやられてしまうかなという、予感もあった。

 モニター観戦なので返し馬はじっくりと見られるわけではないが、上位に推した馬たちはいずれもいい雰囲気。そしていよいよ、ゲートイン。キタサンはポンと出てハナへ。スワーヴは僅かに出負けして後方から。玉砕覚悟で競りかけて行く馬もおらず、GⅠで圧倒的1番人気を背負っている馬とは思えないほどのマイペースの逃げ。決して忖度ではなく、ここらがユタカマジックなのだろう。2016年の天皇賞(春)を見ているかのようだった。こうなると直線も逃げ脚は衰えず、難なく押し切り。ヒモはちょい荒れだったが、多くのファンは喜んでいたようだ。

 本命のスワーヴリチャードは勝負どころから外を追い上げ、直線もよく伸びていた。ただ、手前が替わらず内にモタれる面も見せ、制裁の対象に。M.デムーロ騎手は年始2日間の騎乗停止となった。調教では確かな成長を見せていたものの、残念ながら実戦には結びつかなかった。それでも勝ち馬からはコンマ2秒差の4着。よく走っているし力もつけているが、依然、右回りへの課題は残す。春の古馬、中、長距離のGⅠレースはいずれも右回り。ドバイなら左回りだが、遠征は考えていないという新聞記事を目にした。「次走は金鯱賞を視野に…」ということも書かれていたが、そこなら条件的にも力を100%発揮できそう。阪神、京都が舞台となる、春本番が鍵になりそうだ。

 対抗のシュヴァルグランも外を回らされる形。加えて直線は外から寄られ、一瞬追いづらくなる場面があった。ゴール前はまたグンと加速していただけに、あれがなければもうひとつ上の着順があったかも。完全に本格化しており、キタサンがいなくなる2018年は年度代表馬が狙えるくらいの存在になりそうだ(今年はさすがに年間GⅠ4勝のキタサンブラックで当確だろう)。

 道中、絶好のポジションにいた、シャケトラとヤマカツエースは2頭とも印を打っていた。しかもラジオの馬券プレゼントコーナーでどちらも複勝を勝っていたので、両方来るんじゃないの!? と、かなりドキドキしていたが、直線は完全に伸び負け。前者はあの手応えなら、もう少し踏ん張ってほしかった。前、前での競馬はあまり良くないのかも。後者はリプレイを見返すと、ポジションを取るのに結構脚を使っており、それで勢いがついてしまい、前半ちょっと走りに力みがあった。もともと2500mは少し長いだけに、ああなってしまうと伸びなかったのも仕方なし。とりあえずは金鯱賞の3連覇を期待したい。

 伏兵クイーンズリングの2着という結果を見ても、有馬記念は枠順が重要だなあということを再認識させられた。あの抽選会を見て、印を変更するくらいの柔軟さが必要だったのかも。そこで、私が数年前からこっそり提案している、ファン投票で10位以内に入ると、上位馬から好きな枠を選べるという制度を取り入れてみてはどうだろうか。本命サイドの決着が増える可能性はあるが、最後くらいみんな当たって終わるというのもいいでしょう。

 あ、来年も28日のプラスワン開催があった…。

栗東編集局 青木行雄

青木行雄(調教担当)
昭和44年8月7日生 大阪府出身 A型
1993年入社。坂路調教を担当。札幌、西のローカル開催では2歳戦を中心に本紙予想も担当。開催日はMBSラジオ「GOGO競馬サンデー!」、BS11「BSイレブン競馬中継」に出演。毎年そうなのかもしれないが、今年は馬券で苦戦した一年だった。特に夏の北海道出張から秋開催にかけてが冴えなかった印象。それを一発で取り返せたであろう会心のヒットが12月17日中京9Rであった。土曜朝の調教を見て、勝ったマサハヤダイヤ(14番人気)を無印から本命に抜擢。単勝8,990円、馬連で31,470円もついたのに、うっかり買い逃がしてしまう痛恨のミス。有馬ウイークもボロボロでいまだにそれを引きずっている感じだが、28日の開催で少しでも取り返したいもの。