新語と流行語~競馬用語集の改訂は?(和田章郎)

 早いもので、今年もあと2カ月を切りました。
 この時期になると、一年を総括した話題が各メディアで扱われ、これもまた〝風物詩〟的なものと言えるようになってきました。
 そのテの話題の中で、職業柄(?)毎年気になるのが、〝今年の漢字〟と〝新語・流行語大賞〟です。
 特に後者は、年明けから「新語・流行語大賞」を念頭に置きつつ、世相を見ていく癖がついてしまってますが、今年の場合は早い段階から「これで決まり」と言われた語がありますね。
 〝忖度〟
 です。
 大体、難読語としてクイズ番組とかで扱われることが多かった気がしますが、意味そのものもなかなか奥深く、それを定着させたという点で、確かに〝流行語〟に相応しい感じはします。

 ただ、私個人の感覚としましては、〝流行語〟って〝生きた言葉〟的に考えた方がしっくりくるので、〝単語〟そのものより、〝言い回し〟的なモノの方が適当である、という気がするのです。
 例えば、ですが、2013年の4語同時受賞の際にも当コラムで話題にしましたが、上記のような理由で「おもてなし」「じぇじぇじぇ」「倍返し」よりも、「今でしょ!」がベストなのでは?と(他も捨て難いのはわかるのですが)。
 で、そういう感覚で言いますと、今年は「印象操作」も魅力があります。更にここにきて「排除します」も急浮上してきました。これが「排除」だとつまらないですが、「排除します」なら流行語のひとつにランクインしておかしくない、と…。

 さて新語、流行語からの連想で、ちょっと前のことになりますが、「広辞苑が10年ぶりに改訂」というニュースが流れました。
 一般のニュースで大々的に取り上げられたのはプロモーション効果なのだとしても、数ある中型の国語辞典の代表的存在、であることは確かでしょう。今回の改訂で第7版目、になるのだそうです。
 紙媒体の衰退が囁かれ、電子辞書や、グーグルの検索で言葉の意味が瞬時に調べられる現在だけに、時代の流れに真っ向から逆らう姿勢というのは、どういう結果になろうとも注目しないではいられません。来年の1月12日が刊行日とか。我が家の棚で埃を被っているのはライバル社の「大辞泉」でして、第7版広辞苑を購入するかどうかは、これから決める、というか、不透明ですけれど(スミマセン)。

 辞書編纂の話と言えば、12年度の本屋大賞受賞作『舟を編む』に詳しいですが、その中に〝用例採集〟という言葉が出てきます。
 編集者が耳慣れない言葉を紙片に書き込んでストックしていく、という一連の作業のことを指すのですが、いかにもアナログっぽい。でも、こういった作業こそ出版社別の〝辞書の個性〟につながるわけですから、実に興味深いところです。
 今度の広辞苑の編纂にそういった、或いは似たような作業が行われたかどうか知りませんが、第6版から約1万語が追加されての約25万語が収録されるのだとか。10年ぶりということを脇に置いても、本当に気の遠くなる作業なんでしょう。実際の現場でどんなことが行われているか、が気になるのは、やっぱり職業柄ですかね。

 その辞書を作る際、初歩の考え方として、いろいろと方法論というかアプローチの仕方があるようで、簡単に言ってしまえば編集方針みたいなもんでしょうけど、〝古典主義〟と〝現代主義〟、また〝理想主義〟と〝現実主義〟などの区別があるんだそうです。
 実際的に現代人が使用している言葉を、できるだけ載せるのが現代主義で、「正しい用法」だけ載せるのが〝理想主義〟。そうではなくて時代とともに意味が変転したような語も、それはそれとして掲載するのが〝現実主義〟、みたいな感じでしょうか。

 そんなようなことを考えてみて、競馬用語も一度ちゃんと整理する必要があるのかな、なんてことを思ったりします。
 〝単枠指定〟なんて死語もあれば、新しい言葉もどんどん出てきています。そして新しい語の多くは、一部の関係者が当たり前に使っているかのように新聞、週刊誌のコメント欄に躍りますが、困ったことにその中のいくつかは、ニュアンスとして何となく感じることができても、すぐに理解できない言葉が少なくなかったりします。
 それは、実は私どもでもそうでして、よくよく説明を聞くと、意味が伝わってないどころか、下手をすれば違った意味に解釈できるような言葉まであったりします(コーナーが二つのコースを〝ワンターン〟?ならば新潟の直線競馬は〝ノーターン〟?)。
 こういう事例はあまり芳しいことではないと思いますし、きちんと説明するためにも、何かのタイミングで、〝辞書〟的なものに纏めるのは無理としても、詳しい用語集があっても悪くないかと。
 その際には、〝語釈〟の中に「誤用例」も書き込む、といった工夫をする、とか?

 独自の用語集を作る作業は、それこそ専門紙各社の、独自のカラーが出せていいように思いますが、いかがでしょうか。紙媒体の将来云々はさておくとしても、最初の立ち位置を見直すといった意味で、有意義なのかもしれませんから。
 なんてことを、広辞苑改訂のニュースを耳にして、ふと思った次第。結論がなくて申し訳ございませんです。

美浦編集局 和田章郎

和田章郎(編集担当)
昭和36年8月2日生 福岡県出身 AB型
1986年入社。編集部勤務ながら現場優先、実践主義。競馬こそ究極のエンターテインメントと捉え、他の文化、スポーツ全般にも造詣を深めずして真に競馬を理解することはできない、をモットーに日々感性を磨くことに腐心。年内いっぱい、自業自得ながらハードな日々が待っていて、普段以上に体調管理に気をつけねば、と自らに言い聞かせているところ。