16年ぶりの女性騎手デビューで、サークル外からも熱い視線が注がれたこの春の中央競馬。振り返ればJRAで初めて女性騎手が誕生した1996年でも、ここまでの騒ぎではなかったような……。
とにかく、大きな注目の中でデビューした競馬学校第32期生の6名。しかし、例年以上にプレッシャーがあったためか、6名ともなかなか初勝利を挙げられず、同期生で最初の勝ち名乗りを挙げたのはデビューから4週目、3月27日中山1Rの木幡巧也騎手でした。
今年の初勝利第一号は遅かった……。そんな話をしていると、「もし3月が終わって全員未勝利なら、競馬学校始まって以来のワースト記録だったらしいですよ」と後輩が教えてくれました。なるほど……。
それを聞いて興味が湧いたのは、各世代の最初の勝ち名乗りは、誰がいつ挙げたのかということ。ちなみに、競馬学校の第1期生がデビューしたのは1985年。以降32年間の記録を調べると以下の通りでした。
年度 | 初勝利日 | 騎手名 | 年度 | 初勝利日 | 騎手名 |
1985 | 3月3日 | ◎石橋守 | 2001 | 3月3日 | ○小坂忠志 |
1986 | 3月16日 | 林満明 | 2002 | 3月3日 | △井西泰政 |
1987 | 3月7日 | 武豊 | 2003 | 3月1日 | ◎長谷川浩大 |
1988 | 3月5日 | ◎芹沢純一 | 2004 | 3月7日 | △竹本貴志 |
1989 | 3月11日 | 佐伯清久 | 2005 | 3月12日 | 小島太一 |
1990 | 3月3日 | ○小原義之 | 2006 | 3月5日 | ◎船曳文士 |
1991 | 3月2日 | ○橋本広喜 | 2007 | 3月3日 | ◎藤岡康太 |
1992 | 3月7日 | 横山義行 | 2008 | 3月1日 | ○三浦皇成 |
1993 | 3月6日 | ○飯田祐史 | 2009 | 3月1日 | ◎松山弘平 |
1994 | 3月5日 | ○植野貴也 | 2010 | 3月7日 | △平野優 |
1995 | 3月4日 | ○野元昭嘉 | 2011 | 3月5日 | ◎嶋田純次 |
1996 | 3月2日 | ◎福永祐一 | 2012 | 3月3日 | ○中井裕二 |
1997 | 3月1日 | ◎池田鉄平 | 2013 | 3月9日 | 原田敬伍 |
1998 | 3月1日 | ◎穂苅寿彦 | 2014 | 3月2日 | △義英真 |
1999 | 3月14日 | 北村宏司 | 2015 | 3月14日 | 鮫島克駿 |
2000 | 3月4日 | ○梶晃啓 | 2016 | 3月27日 | 木幡巧也 |
◎→初騎乗レースで初勝利 ○→初騎乗日に初勝利 △→初騎乗週に初勝利
後輩の言葉を疑ったわけではありませんが、自分で調べてみても確かにその通り。前述の不名誉な記録こそ辛うじて逃れたとはいえ、世代最初の勝ち名乗りが3月27日というのは、これまでで最も遅い記録。開催単位で言えばデビュー4週目での勝利でしたが、それまでは3週目での勝ち上がりが2例あるだけ。あとはすべて、デビューから2週以内に誰かが勝ち上がっており、初騎乗初勝利の快挙を飾った騎手も10名を数えます。
ただ、その木幡巧也騎手は先週までに11勝を積み上げており、今や年間40勝ペース。85年以降の新人最多勝の平均が33勝ですから、まさに不名誉な記録を吹き飛ばす活躍ぶりといっていいでしょう。
ところで〝最初の一人〟がいれば、〝最後の一人〟がいるのも当然の理。一人、また一人と先を越されていく焦燥感はどれ程のものか……。厳しい勝負の世界とか、競争社会というものとは無縁な生き方をしてきた自分には察するに余りあるところです。
その心境はさておき、各世代の〝最後の一人〟がいつ初勝利を挙げたのか、これも調べてみました。残念ながら未勝利のまま引退した騎手が3名いますが、その3名は対象外としています。
4月→1人 | 9月→1人 | 翌年5月→1人 |
5月→4人 | 10月→1人 | 〃7月→1人 |
6月→7人 | 11月→0人 | 〃8月→1人 |
7月→1人 | 12月→2人 | 〃10月→2人 |
8月→7人 | 翌年2月→2人 | 翌々年5月→1人 |
当然のことながら、〝最初の一人〟以上に、〝最後の一人〟の初勝利の時期には大きな差があります。年を跨いだ騎手も8名いて、うち1名は実にデビュー翌々年5月の初勝利でした。
敢えて名前を挙げさせてもらうと、現役騎手では田中勝春騎手や丸山元気騎手が〝最後の一人〟。また、故後藤浩輝騎手も、実はこの〝最後の一人〟でした。
初勝利というものが生涯記憶に残る大きな大きな1勝であることは間違いないでしょう。しかし、その一方で、他人より遅れを取ったとしても、特に気にかける必要などない、そんなものでもあるようです。大きくもあり、また、さほど大きくもなし……。おそらく、それが初勝利というものなのかもしれません。
さて、32期生で〝最後の一人〟になっていた菊沢一樹騎手でしたが、5月7日の東京競馬1Rで、「風が違った」の言葉とともに待望の初勝利。〝最後の一人〟だったからこそ、胸に響くような言葉が自然と出たのだろう、個人的にはそう思っています。
他の同期生が全員勝ち上がり、おそらく焦りもあったことでしょう。しかし、過去の記録を振り返ると、5月7日というのはむしろ早い方。〝最後の一人〟から大きく盛り返した前出の先輩たちを目標に、これからも勝者にしか分からぬ〝風〟をたくさん感じてほしいものです。
美浦編集局 宇土秀顕
宇土秀顕(編集担当)
昭和37年10月16日生、東京都出身、茨城県稲敷市在住、A型。昭和61年入社。
内勤の裏方業務が中心なので、週刊誌や当日版紙面に登場することは少ない。趣味は山歩きとメダカの飼育。
家の裏に自生するニセアカシアが大きく成長。初夏の眩しい光の中、白い花が一斉に咲き誇る様は見事なものでした。しかし数日後、風に誘い散らされて一面の花吹雪に……。「のどけからまじ」の切なさを覚えるのは、決して桜だけではないとしみじみ感じた次第です。もっとも、ニセアカシアが渡来したのは明治時代に入ってからとのこと。在原業平もこのニセアカシアの花吹雪は知らなかったことでしょう。