震えた瞬間(吉田幹太)

 ついに決勝と3位決定戦を残すだけになったラグビーワールドカップ。

 一部では3位決定戦の意味を疑問視する声もあり、モチベーションが保てないのではないかといわれることもあったけれど、今大会に限っていえば決勝だけでは物足りない。まだまだ見たい、終わってしまうのが本当に残念でなりません。それくらい今大会は接戦が多く、最後まで気の抜けない試合が多かった。

 各国の実力差が急速に接近していることが主な原因ではあるのだろうけれど、その流れを作ったのはおそらく、日本代表だったのではないでしょうか。あの南アフリカ戦を各国の関係者が見て、大国を倒すことが現実に可能だという感覚になったような気がします。

 ここ十数年のラグビー界の厚かった壁を壊した瞬間だったと、今にしてみると思えてなりません。

 しかし、あの瞬間はそれどころじゃなくて……テレビ観戦ではあったけれども、歴史の変わる瞬間をひょっとしたら見れるかもしれない。いやいや、そんなことはどうでも良くて、道中から日本代表が南アフリカと互角に渡り合っている姿を見て、ただただ興奮していました。

 そして、あの瞬間。昔でいえば丑三つ時で世間が寝静まっている時。体の震えが止まらなくなり、誰かに何か伝えたくて、震えた手で必死でメールをうちまくってました。

 思えば、自分がラグビーを少しかじったのは高校の頃。試合も夢中になって見始めましたが、当時は早慶明の試合は勿論、大学選手権のチケットすらなかなか手に入りませんでした。社会人や高校の選手権も民放でビッシリ放送するほどで、まさに超人気スポーツだったのです。

 それが20年ちょっと前から、お客さんが徐々に減り始めて、今では当日に行ってもほぼ好きなところで試合を見れるような始末。せっかく始まったトップリーグもほとんど報道されることはなく、土日の試合を録画していても、その結果をニュースで知ることはほとんどありませんでした。

 秩父宮でウェールズ代表に勝った時の報道のされ方も限定的でした。野球やサッカー、そのほかの人気競技に比べても扱いは小さく、少し失望して、本当に日本でワールドカップをやって大丈夫だろうか?などと思ったりもしました。

 それがここ数週、尋常じゃない報道のされ方で、想像をはるかに超える盛り上がり。地上波を見ていて、ラグビーの話題が出ない日はないというくらい、あちらこちらで扱ってもらっています。

 正直、ここまで騒がなくてもいいのではと思うくらいですが、そのにわか人気にも眉をひそめたくなるどころか嬉しくてならない。今回に関しては、もっとやってくれというくらい嬉しくてなりません。

 あらためて感じるのは勝つことの大事さでしょうか。

 日本ラグビー協会もあの手この手を使って人気を上げようとしていましたが、ほとんど効果らしい効果はなかったような気がします。それが、あの一戦だけで五郎丸選手を知らない人は日本ではいないくらいの扱われ方なのだから、いかに小細工よりも、正攻法で大きな壁をぶち壊すことが大事なのかを痛感しました。

 これは競馬にも、そして馬券にも言えることかもしれない。負け慣れていてはいつまでもウダツが上がらない。自分もこれまでの仕事でついたはずの実力をそろそろ生かして、大きな壁をぶち破らなければ。

 しかし、この壁は厚くて……破ったと思ってもまだ先がある。翌週には強敵が襲い掛かってきて、その都度、捻じ伏せられています。もっとも、それはラグビー日本代表にも言えることか。壁を破ったとはいえ、それも一度のこと。まだ先には自国開催のワールドカップが控え、その前にはスーパーラグビーへの参戦も控えています。

 更に再来週から始まる国内のトップリーグを盛り上げて、この盛り上がりを一過性のものにしないことが大事なのでしょう。実際、野球やJリーグよりも値段は安くて、スタンドから選手への距離もかなり近い。一度来たお客さんはきっと魅力に取り付かれるはずです。

 まずはそのあと押しとして、南アフリカが見事3位になり、今大会で敗れたのはニュージーランドと日本だけだった、そんなことになればいいのですが……。

美浦編集局 吉田幹太

吉田幹太(調教担当)
昭和45年12月30日生 宮城県出身 A型
道営から栗東勤務を経て、平成5年に美浦編集部へ転属。現在は南馬場の調教班として採時を担当、グリーンチャンネルパドック解説でお馴染み。道営のトラックマンの経験を持つスタッフは、専門紙業界全体を見渡しても現在では希少。JRA全競馬場はもとより、国内の競輪場、競艇場、オートレース場の多くを踏破。のみならずアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、イギリス、マレーシア、香港などの競馬場を渡り歩く、案外(?)国際派である。