鞍上鞍下小倉絵巻(山田理子)

 数ある障害重賞のなかで、小倉サマージャンプがとりわけ好きだ。小倉の幕開けはまだ始まったばかりの夏休みのような解放感があり、平地重賞が組まれていない、唯一の重賞というのも障害ファンの気持ちを盛り立てる。ジョッキーたちが一様に小倉のコース形状を誉めるのも、観戦に熱が入る大きな要因だ。トラックの最内に設けられた1周1309m、真ん中にタスキのかかる障害コースは竹柵、片面・両面の生け垣(両面:どちらの方向からも飛ぶこと)、水濠、バンケットがあり、最後の直線には可動式の障害が待ち受けていて実に多彩。滞在もしくは直前輸送のどちらかで臨むため、本番までにスクーリングを済ませることができるメリットも大きく、人馬ともレースへ向かう心構えが随分と違うのではないだろうか。メンバーは揃った。オースミムーンが勝てば連覇、メイショウブシドウが勝てば高田潤騎手の同一レース4連覇と角居勝彦調教師のJRA全10場重賞制覇が同時に達成、白浜雄造騎手が勝てば自身の持つ障害重賞最多勝(18)がひとつ上積みされることになり、多くの記録がかかっていた。
 さて、レース。まずはテンの攻防。障害戦は距離が長いから……とついつい最初のポジション取りに頓着せず観てしまいがちだが、むしろ逆。距離が長いだけに、内に入れられずずっと外を回らされたときのロスは甚大なものとなるから、早いうちに何とかいいポジションを取りたい。速いのは外枠のピカピカテッタとコウエイキング。最内のニライジンクは仕掛けて前へ。チョイワルグランパは控えて好位から。メイショウブシドウは行くだけの脚はあるが、スピードを殺さない程度に抑えて向正面に入ると程なく中団インを確保。オースミムーン、グリッターウイングがその後ろにつけ、珍しく出遅れたアラタマユニバースはさらに後方からとなったが行きっぷりは良く、慌てず動かず外を回らずジッとついていく。タスキに入るところでチョイワルがハナに立ちかけたが、アシュヴィンがそれを交わしてハナ。オースミもジワリジワリと前へ。タスキコースを出ると左回り→右回りに替わるため、ここで内外が入れ代わるのがポイント。メイショウはほんの少しポジションを上げ、2周目4角手前でオースミがスッと外に動いたところで再びインをつくかと思いきや、2周目スタンド前で休み明けで24K減のコウエイの脚が上がり、休み明けで20K増のピカピカが水濠でトモを落とすとこれらを避けて外に進路を取った。内側にいる人気の一角グリッターウイングにプレッシャーをかけながら1~2角を回り、2周目向正面で4番手までポジションアップ。グリッター、アラタマが直後に迫るが、最後から3つめを飛ぶと前にいるチョイワル、アシュヴィンの内に入れ、次の障害を最内で飛んで一気に先頭へ。4角で差を広げ、最終障害をダイナミックにこなすと更に一段ギアを上げて8馬身差の大勝で他を圧倒した。障害競走は最後はバテ合いになることが多く、11個の障害を終えてなお全身を使ったフォームで駆ける姿は異彩を放つ。小倉サマージャンプは今年で16回を数えるが、上がり3F37秒4は史上最速タイ(04年ロードプリヴェイル)。昨年の障害のリーディングジョッキー&トレーナーコンビでの優勝となり、高田潤騎手は11年ドングラシアス、12年エムエスワールド、13年オースミムーンに続くVで障害史上初となる同一レース4連覇、角居勝彦調教師は史上最速でJRA10場重賞制覇を遂げ、角居調教師も、ディープインパクト産駒ともこれが初めての障害重賞勝ちとなった。
 メイショウブシドウは平地では2歳暮れに平地未勝利を勝ったあと頭打ちとなり、3歳9月に障害試験に合格。そこから平地500万、障害未勝利、障害オープン、イルミネーションJS、平地500万、小倉サマージャンプの6勝をすべて高田騎手の手綱で積み上げてきた。担当するのは嘉堂信雄元障害ジョッキーだ。5歳の夏。夢の道程で魅せてくれた鞍上鞍下の華麗な舞に心が震えた。

栗東編集局 山田理子