V字凹型の買い時(山田理子)

 京都記念のデスペラードの逃げ切り勝ちにはたまげた。確かに有馬記念(7着)は窮屈な競馬での結果だった。それに、寒い季節がいかにも合うのだろう、毛ヅヤが冴えて動きもはつらつとしていて、中間もムードも素晴らしく良かった。にしても、これまでの追い込み策から一転した逃げ切りとは……。◎トーセンラーの単勝3.7倍に投資したいち馬券ファンとしては横山典弘騎手にしてやられた気分であり、思考が凝り固まってきたオーバーフォーティのひとりの人間としては第一人者の想像を超えるフレキシブルな騎乗に感嘆が漏れた。競馬の予想という行為をより広範囲へ、そしてより深くへと誘う、驚嘆の結果だったと思う。トーセンラーは折り合いをつけて脚をタメ、直線は確かに反応して伸びかけたものの、右手前のまま、デスペラードを捉えることができなかった。武豊騎手いわく「一番の敗因は馬場」とのことで、なるほど、3~4角の坂を下ってついた勢いほど伸び切れなかったのは馬場のせいかもしれない。ただ、14K増でデビュー以来最高の(474K、最低体重は3歳秋のセントライト記念で428K)でパドックに登場し、まったく太くなく厚みと丸みを増したその体を見て、返し馬の天性のバネにパワーを増したフォームを見て、この馬の「成長」を確信した。負けはしたが、間違いない、成長のピークにあると私は思う。今回のコラムで取り上げるのはこちら。ディープインパクトの初年度産駒について、ちょっとお話してみたい。

 馬体派を公言し、毎年必ず2月の社台スタリオンステーションの種牡馬展示へ足を運ぶ先輩TMが、種牡馬になったディープインパクトをじかに観察した最初の年に、栗東に帰るなり興奮して私に教えてくれた。「ディープってさ、種牡馬になってもう100Kぐらい体が増えたんだよ。現役は4歳までで、体重も変わらず走っていたんだけど、実はその後の成長力って凄いんじゃないかな」と。ディープインパクトの初年度産駒であり稼ぎ頭であるトーセンラーのパワーアップの度合は目を見張るものがあり、成長過程を目の当たりにしていると、あのとき何気なく交わした会話に重みが出てくる。トーセンラーの2歳11月のデビュー勝ちが438K、3歳2月のきさらぎ賞が432K、父の現役時代を超えて走った5歳2月の京都記念が460Kで、きさらぎ賞以来の勝利。そこから460→456→456→460Kときて、5歳秋のマイルCSで6度目のG1チャレンジにして悲願達成。今回の京都記念が474Kでの出走となった。前回マイルCSから3カ月の休み明けでも余分な肉はない。CWでビッシリと丹念に併せ馬の攻めを積まれての14K増はまるまる成長分に映った。

 2008年生まれのディープインパクトの初年度産駒には、早い時期にトップレベルで走り、一旦低迷してそこから浮上するⅤ字というか凹型の成績が見受けられる。トーセンラーも京都記念がきさらぎ賞以来2年ぶりの勝利だったわけだが、他にリアルインパクト(3歳6月に安田記念勝ち、以来2年7カ月ぶりの勝利が5歳暮れの阪神カップ)、マルセリーナ(桜花賞勝ち、以来2年2カ月ぶりの勝利が5歳6月のマーメイドS)がそう。重賞限定でいえば、ダノンバラードが2歳暮れのラジオNIKKEI杯2歳S以来のタイトルが5歳1月のアメリカJCCであり、馬体重もデビュー時から20Kほど増加している。トーセンラーの京都記念が6番人気単勝9.2倍、リアルインパクトの阪神カップが8番人気単勝15.4倍、マルセリーナのマーメイドSが7番人気12.4倍、ダノンバラードのアメリカJCCが3番人気6.0倍。もともとのポテンシャルが高く、雌伏の時を経て復活するときは鮮やかで爽快。2歳の早い時期から走ってクラシックを前線で駆け、その後ペースが落ちて大敗もしながら勝ち星から遠のいて次第に人気も下がるが、忘れた頃に蘇り表舞台に上がってくる。従って、低迷が続いていても早熟型と見限るのは早計。京都記念でデスペラードが教えてくれたばかりだが、固定概念・先入観にとらわれることなく、常にサラの状態で馬を見てジャッジすることが肝要だ。

 さて、次なる狙いは明け4歳のラウンドワールド。10着、11着ときて人気を下げそうだが、長~い目で見て、どこかで単の買い時がくるはずだ。

栗東編集局 山田理子