上を向いて家に帰る(宇土秀顕)

 

▼盛り上がったあと2度ガックリ
 ついに2億円が飛び出しました。そして、射幸心をアオりまくってくれるキャリーオーバーという魔性の言葉。「実はあの3票のうち1票が自分なんですよ」、いつの日か、ここでそう書いてみたいものです。
 それでも初めて5レース目まで行きました。お察しのとおり、その次の1万9千円の週です(笑)。3×1×2×2×1の12点で、最後の“1”がマイネルラクリマ。スタートでドキドキ、1コーナーで盛り上がって、ゴールでガックリ、配当を見てもう一度ガックリ。ラクリマが残っていても、おそらく2万円台だったんでしょうか?
 それでも、初めて味わったこの高揚感。創部間もない高校の野球部よろしく“目指せ!初戦突破”が夏のスローガンになっていただけに、大きな前進と評価してください。なにしろ、最終手段として出走全馬×1×1×1×1まで考えたくらいですから(笑)。共同購入しているヨメからもすぐにメールが届きました。最後は震えがきたとのこと。テレビの前で一人で大騒ぎしていたことは確実です。
 競馬を覚え始めた頃の新鮮な感覚に戻り、このWIN5を楽しんでいる昨今ですが、当時との違いをひとつだけ挙げるなら、“負けを取り戻す”というスパイラルに陥らないことでしょうか。“次のレースで……”ということがない、週に1度のWIN5。何があろうと7日後には平常心、購入時に自制心さえ利けば深傷を負うことは決しありません。勿論、それが物足りないと感じる人も少なくないのでしょうが……。


新星フレールジャックの末脚に砕け散った初WINの(小さな)夢!


オケラ。さすがに画像は持ってないので自作。

▼(オケラ)街道をゆく
 生来、手堅い性格の自分がそんなスパイラルに陥ったのは、まだ入社前の20代前半のこと。ボロボロ負けて、カッカと熱くなって、また負けて……。最終レースが終わったら、財布の中身は東中山から東武線・竹ノ塚までの電車賃のみ(それを残すようだから2億円は掴めない?)。独りでトボトボとオケラ街道を歩いて帰ったものでした。
 すっからかんのお手上げ状態になるから“オケラ”街道(図参照)。でも、財布がすっからかんになるというよりも、心がすっからかんになるという方が正鵠を射る表現ではないでしょうか。その時の自分の顔にも、おそらく“呆然”の2文字がクッキリ浮かんでいたはずです。もう30年近くも前の話で記憶もかなり薄れてますが、なぜか思い出すのは“空が綺麗だった”こと。とんでもない虚無感に襲われた心に染み入ってくる下総の空。夕暮れの気配迫るその空を見上げながらトボトボと歩いていると、何か、いまこの瞬間が現実なんだか幻想の世界なんだかよく分らなくなってきて、しまいにはもう、心地良さのようなものさえ感じながら歩いたものでした。そして、駅についた途端、一気に現実に引き戻されるのです。300円しか入ってない財布を覗き込むから。

▼怪しい帰宅人
 実は“空愛好家”を自認する自分。見上げる空に心が惹かれるのは、この遠い日のオケラ体験が遠因になっているのかも知れません。そんな自分にとって、GⅠシリーズが終わって夏を迎え、陽も延びた今が絶好の季節。美浦の会社から我が家まで約1時間30分の道程、刻々と彩りを変えてゆく茜空を見上げながら帰るのが、密かな楽しみとなっています。智恵子が言った安達太良の空ほどではないにせよ、この美浦も空は広く、自然も豊か。“空はゆるく私にもたれ~”某ロックバンドの名曲の一節を(怪しまれないように)心の中で口ずさみながら、そして、これも怪しまれないように、人目のない隙にパチパチと空の写真を携帯に収めながら、家路を辿るこの頃です。空を撮るため携帯を掲げながら帰る道、これもある意味“オケラ街道”なのかも知れません。

会社を出て3分も歩くとイチオシの絶景スポットに。空の下が霞ヶ浦あたり。

15分経過。この美浦村大谷付近では燕が乱舞しているが、さすがに携帯では写らない

会社から50分。トレセンに隣接している筑波寮(報道機関用の宿舎)の真裏付近。田んぼに沿って延々と歩く。虫刺されに注意が必要。

これは家から。まだ陽が残っていれば庭のデッキから夕焼け見物ができる。

美浦編集局 宇土秀顕