独占は続くのか(水野隆弘)

 上半期のJRAのG1競走も今週末の宝塚記念を残すのみとなった。これまでのところ、ダービーで出走全馬がサンデーサイレンスの孫だったということなどがあって、社台ファーム・ノーザンファーム(これらに追分ファーム、白老ファームを加えて以下社台グループとくくることもある)・サンデーサイレンス系の寡占という印象が強調されたわけだが、実際のところどうだったのか。こつこつと数えてみた。
 まず生産者別に見ると、

・フェブラリーS:ノーザンファーム1、追分ファーム1、それ以外14。
・高松宮記念:社台ファーム3、ノーザン(オーストラリアでのキンシャサノキセキをカウントして)1、白老ファーム2、それ以外10。
・桜花賞:社台3、ノーザン2、それ以外13。
・皐月賞:社台5、ノーザン4、白老3、追分1、それ以外5。
・天皇賞(春):社台2、ノーザン4、それ以外12。
・NHKマイルC:社台4、ノーザン5、白老1、それ以外8。
・ヴィクトリアマイル:社台1、ノーザン4、それ以外12。
・オークス:社台4、ノーザン4、白老1、それ以外9。
・ダービー:社台6、ノーザン4、白老3、それ以外5。
・安田記念:社台2、ノーザン3、白老1、それ以外12。

 合計では社台グループ延べ75頭に対してそれ以外の生産者は延べ100頭となっている。社台グループの合計が出走馬の過半数を占めたのは意外というかNHKマイルC、皐月賞とダービーの3つに過ぎない。芝の牡馬クラシック路線では社台グループが圧倒的ともいえる勢力を誇っていても、古馬になり、路線がダートや短距離、長距離と分かれていくと、それ以外の生産者も互角以上にやれていることが分かる。それなのにどうしてダービーで社台グループが18頭中13頭を占めるに至ったのか。今年のダービーの例のみで考えると、目立つのはデビュー時期の偏り。このごろはクラシックの出走権確保が年を追って厳しい戦いになっていて、なるべく早い時期にひとつ、できれば2つ勝っておいて、ある程度余裕を持ってクラシックに臨みたいというのが厩舎や馬主の共通の認識となっている。それを実際に証明するかのように、今年のダービーは勝ち馬オルフェーヴルが8月14日新潟デビュー勝ち、2着ウインバリアシオンが8月1日小倉でやはりデビュー勝ちを収めていた。両馬ともにクラシックの出走権を早い時期に確保できていたわけではないが、勝って秋以降に備えるという意味では真夏のデビューが功を奏したといえる。年明けデビューの5着クレスコグランド(1月5日初出走)や9着トーセンレーヴ(2月12日)という遅いものも含め、全馬のデビュー日を平均すると10月5日となるが、ちょっと面白いのは社台グループ以外の5頭のデビューの時期で、4着ナカヤマナイトが8月8日、6着ショウナンパルフェ8月14日、8着オールアズワン8月14日、12着デボネア9月18日、16着エーシンジャッカル7月25日と、いずれも平均より早い、夏の間のデビューだったこと。ちょうど今の時期までの調整を順調に進め、これからの1~2カ月も暑さに負けずトレーニングを積んでいかないとダービーに向けての戦いではすでにある程度のビハインドを背負うという、なかなか厳しい現実を示している。まあ、これは今年がこうだったという例に過ぎないんですけどね。逆にいうと、社台グループはそういった部分を着実に進めてきたことでNHKマイルCとダービーで出走馬の過半数を占めることができたわけだ。

 同様に血統面からも振り返ってみよう。こちらは父系がサンデーサイレンス、母の父からサンデーサイレンスが入るもの(母の父ダンスインザダークなども含める)、それ以外の3グループに分けた。

・フェブラリーS:父系3、母の父0、SSなし13。
・高松宮記念:父系3、母の父1、SSなし12。
・桜花賞:父系6、母の父4、SSなし8(ライステラスの父ソングオブウインドの母の父はサンデーサイレンスだが「なし」に含める)。
・皐月賞:父系12、母の父4、SSなし2。
・天皇賞(春):父系8、母の父2、SSなし8。
・NHKマイルC:父系5、母の父7、SSなし6。
・ヴィクトリアマイル:父系6、母の父5、SSなし6。
・オークス:父系11、母の父3、SSなし4(ライステラスの父ソングオブウインドの母の父はサンデーサイレンス、カルマートは祖母の父がサンデーサイレンスだが「なし」に含める)。
・ダービー:父系16、母の父2、SSなし0。
・安田記念:父系6、母の父3、SSなし9。

 こちらも生産者と同様の傾向というか、サンデーサイレンス直仔の活躍した領域と似て、クラシックで強い、芝の長距離で強いという傾向が出ている。ダービーでの出走「独占」も大変なものだが、1~7着までを隙間なく父系直系で占めた皐月賞のインパクトは、皐月賞とダービーで産駒ワンツーを決めたサンデーサイレンスの初年度産駒に通じるものがあって、サンデーサイレンス王朝の2度目のピークといっていいかもしれない。
 しかしこのように牡馬も牝馬も走る馬はみんなサンデーサイレンスの血が入っているということになると、困ったことも起きてくる。サンデーサイレンスの近親交配の度が過ぎるので、常識的にダイワスカーレットにディープスカイは配合できない、ブエナビスタにヴィクトワールピサはつけられない。名馬・名牝の配合の可能性が狭まるということだ。これを19世紀から20世紀にかけての大種牡馬セントサイモンが辿った栄華と没落になぞらえる向きもあるようだ。しかし、週刊競馬ブック6月20日発売号の「血統アカデミー」で荻野哲矢さんが展開していた楽観論に私は与する。今の時代は米英愛仏に限らず、ドイツ、オーストラリア、あるいは南米からでも異系血脈の調達ができる。これはセントサイモンの時代との大きな違い。どうしようもないくらいにサンデーサイレンス濃度が高まれば、ある程度の期間、発展が阻害されるのは確かだろう。しかし、そこにうまく配合が合う種牡馬が来れば爆発的な成功もあると思う。オーストラリアで北半球から来たシャトル種牡馬が大成功したのも、それまで閉じた世界で独自の血統が煮詰められてきたノーザンダンサーの処女地に、ラストタイクーンやデインヒルがポンと放り込まれたからだ。結果、オーストラリア産馬は国際的な競争力を飛躍的に上げることに成功した。同じように、サンデーサイレンス血脈の飽和状態を日本馬がもう一段階強くなるチャンスに結び付ける手はあると思う。

栗東編集局 水野隆弘